全長 25cm
沖縄では「イシミーバイ」と呼ばれ、けっこう美味しいこともあって、釣りをする人々にもよく知られているカンモンハタ。
インリーフやリーフエッジ付近といった浅いところでフツーに観られる彼らは、水納島のビーチでもフツーに観ることができる。
ただし、石垣模様の体色はストロボをあてた写真なら目立つけれど、このような模様は海中で観るとものすごく背景にとけ込むため、目が慣れないうちは、ジッとしているカンモンハタに気付かないかもしれない。
たとえ気付けたとしても、大きくなっても30cmくらいと小型のカンモンハタは根のボスになるような大物ではないし、海中で観る体色は地味だから、多くのダイバーにとってはきっと「脇役」なのだろう。
そうはいっても好奇心旺盛のハタだから、フト視線を感じたほうに目をやると、カンモンハタがジッとこちらを見つめていることがよくある。
また、オトナと幼魚で劇的な色彩の変化はないようながら、チビの頃はやはりカワイイ。
こういう姿を観ると、脇役にしておくのはちょっともったいない。
といっても幼魚が暮らしているのはもっぱらインリーフのようで、水納島の場合通常のボートダイビングで出会える機会は少ない。
そんな、多くの人に知られているわりには人知れず暮らしているカンモンハタが、やけに目立つ季節がある。
6月のある日のこと。
リーフ際でやけにカンモンハタが目立つなぁと思ったら、とある1匹はこんな状態になっていた。
大きく膨れているこのお腹は、どう見てもメスの証だろう。
おそらく産卵間近の卵が発射10秒前態勢になっていると思われる。
このメスがちょっと場所を変えると、そのすぐそばにオスがやってきた。
メスが場所を変えるたびに、オスがついて回っている。
この時は、いつになくそこかしこでカンモンハタがチョロチョロ動いているのが気になっていたのだけど、どうやら随所でカンモンハタたちがこういう動きを繰り返していたようだ。
メスに近づいてきたオスは、そのままメスの前に来て、まるで体が硬直したかのようなポーズをとりつつ、プルプルプルプル……と体を震わせた。
何度か繰り返していたにもかかわらず、残念ながらその硬直プルプルシーンは撮れなかったけれど、イメージはこんな感じ。
メスのそばで盛んにプルプル…することによって、「雄」をアピールしているらしい。
よく観るとこの時のカンモンハタのオスは、お腹のあたりに石垣模様がなく、白っぽくなっている。
同じ日に撮ったおそらく別個体も、同じようにお腹が白くなっていた。
一方、他の時期に撮ったカンモンハタはみな、お腹まで模様が入っている。
婚姻色なんですかね?
気になったのでカンモンハタの白いお腹について調べてみたところ、カンモンハタではないけれど、同じく小型のハタであるナミハタで面白いジジツを知った。
詳しくはナミハタの稿で。
それはともかくこの日は、お腹の大きなメスがこのほかにもチラホラ観られたし、同じような行動もまた随所で観られた。
メスのお腹のテンパった状態からして、おそらくこの日のうちに産卵に至るのだろう……
……って、そういえばハタ類の産卵は観たことがない。
彼らって、どの時間帯で産卵するのだろう?
再び気になったので調べてみると、なんとカンモンハタたちは、月の周期と完全に同調して生殖腺が成熟し、満月の大潮後に産卵するという(詳しくはこちらをご参照ください)。
上記リンク先によると、インリーフにいるカンモンハタたちは、満月になるとリーフの外に移動し、そして産卵に至るという。
では、カンモンハタたちがアヤシイ動きをしているのをワタシが観た2017年6月12日の月齢は……?
17.28。
旧暦で5月18日だった。
満月から3日後、報告されている研究成果にピッタリ符合する。
そうだったのか、あの時やけにカンモンハタが目立つと思ったら、普段はインリーフにいる子たちがリーフの外に出てきていたからだったのだ。
カンモンハタの産卵期は、5月以降7月下旬までだそうだ。
秋までの大潮は日中に随分潮が引くため、リーフ際まで出向いて釣りをする人も数多い。
釣り人にも人気のイシミーバイことカンモンハタのこと、昨今の釣りブームに鑑みれば、その時期の満月から4〜5日ほどはリーフ際での釣りを禁止にしないと、たちまち資源の枯渇に繋がることだろう。
水温がグンと上がり始めてから盛夏になるまでの、陸も海も過ごしやすい初夏の海で繰り広げられる、カンモンハタの恋模様。
その季節なら、バイプレーヤーズも見事に脚光を浴びるに違いない。