水納島の魚たち

カシワハナダイ

全長 15cm

 ケラマハナダイ同様カシワハナダイも、水納島では砂地のポイントでしか観られない。

 海中では、肉眼で観ると茶色っぽく見えて今ひとつ派手さに欠けるのだけど、茶色に見える部分の実際の色はけっこう鮮やかな赤だ。

 ストロボなどで光を当てると、本来の姿で観ることができる。

 ↑これがオスの通常色…というか、ケラマハナダイでいうなら張り切りモード時のカラフルな色の時。

 ケラマハナダイでいうところの張り切っていない時の体色に相当するのは、カシワハナダイの場合↓こんな感じだ。

 張り切っている時には白かったところまで茶色っぽくなっているから、海中ではかなり地味に見えてしまうものの、やはりカシワハナダイのオスも気分によって素早く体色を変え、メスに対してやる気モードになっている時には…

 肉眼でも、いや、↑このようにストロボを当てた画像よりも、海中で肉眼で観るほうが青白い炎のように輝いて見え、よりいっそう美しい。

 この色になっているオスが、中層で激しくメスの前で素早く泳ぎながらアピールする

 同じ種類の魚とはとても思えないこの興奮モードカラーながら、その中間段階を観れば(かなり素早く色を変えるから、ボーッとしていると見逃す)同じ種類の魚であることがよくわかる。

 他のハナダイ類と同じくカシワハナダイのオスも低水温の季節からメスに対して盛んにアピールするので、やる気モードカラーを発して中層で素早く泳ぐ様子は真夏の高水温時を除いてフツーに観られ、青白い光がスパークしている様子はたいそうカッコイイ。

 同じ根にオスが複数匹いれば、そこかしこで青白い輝きが急降下泳ぎを繰り広げているから、そんな輝きを目にすれば、その色をこそ撮りたいところ。

 ところが遠目にはゴキゲンにメス相手に青白ボディをスパークさせているオスなのに…

 …無遠慮に近寄ると警戒してしまい、たちまちやる気モードから張り切りモードに後退してしまう。

 上の2枚の写真は同じ個体(のはず)で、画像に記録されている撮影時刻は同じだから、ほとんど瞬時といっていい時間で体色を変えていることがわかる。

 色を変えるだけじゃなく、ダイバーを怖がると根まで降下してに岩陰に寄り添ってしまう。

 なのでオスが青白く輝いてやる気になっている時には、無遠慮に近寄らないようにしなければ。

 そっとそっと脇から拝見させてもらう程度で観つつ、それほど警戒しなくなった頃を見計らって撮らせてもらうと…

 …いくらでも青白く輝くスパークを見せてくれる。

 邪魔さえしなければ、盛り上がりまくって↓こういう色になってくれることもある。

 尾ビレの真ん中が薄くなり、後縁だけが赤くなっている状態。

 過去に撮ったカシワハナダイオスのやる気モードカラーではこのバージョンのほうが圧倒的に少数であるということに鑑みると、どうやらこれが、カシワハナダイオスのハイパーやる気モードカラーのようだ(※個人の勝手な推測です)。

 一方メスは、海中で観るとオスよりもさらに茶色く地味に見えるけれど、やはり実際の色はけっこう赤い。

 なので集まっているところを光を当てて見てみれば、けっこう派手に見える。

 張り切っていない時のオスと似ているけれど、メスの尾ビレの上下端は伸長せず上下端に赤ポッチリがあるだけであることで見分けられるし、たいていの場合、メスの腹ビレの前縁は赤くなく、背ビレ前端にポッチリマークが無い。

 張り切りカラーのオスと比べてみればより簡単。

 左がオスで、右がメス。

 近年は他のハナダイ類同様カシワハナダイも随分減ってしまったけれど、ダイバーが訪れることなどほとんどない根に行ってみると、たまにカシワハナダイ密度が高いところもある。

 畳1畳ほどの根にいるハナダイ類のほとんどがカシワハナダイで、メスが根の近くにいる一方、オスは根からちょっと離れたところで集まっていた。

 2000年前後の水納島なら当たり前だったこんな風景も、今やすっかり貴重なシーンだ。

 だからといって、ではダイバーが訪れないところなら減っていないのかというとそうでもなく、その昔はとんでもなくハナダイ類が群れていた水深30m超の禁断の根ときたら、今行くとハナダイ類がショボくいる程度で、昔日の面影は微塵もない。

 ハナダイ類、なにげに絶滅危惧種かも。

 さて、オスが青白い炎となって頑張り、メスも期待に応えた結果、やはり初夏あたりから幼魚がコジャンと増えてくる。

 にぎやかだからついつい全体を観てしまいたくなるのをグッと堪え、1匹1匹に注目すると、その色彩にはオトナとは違う味わいがあることに気づく。

 もう少し成長すると…

 ちょっとオトナに似てくる。

 これくらいのサイズになる頃には、根の周りは子供たちでにぎやかになってくる。

 このまま順調に増えていってくれれば…

 …と毎年願いはするものの、世の中同様海の中もそんなに甘くはない。幼魚がオトナになる道は険しいのである。

 なかにはこんなトラブルに見舞われている子も……

 胸ビレの付け根に、群がる寄生虫が!!

 普通このテの寄生虫は、ハナダイ類やイトヒキベラなど活発に泳ぎ回る魚には着かないモノなのに……。

 オトナへの道のりは険しい。

 それでもスパークオスにはもっともっと頑張ってもらって、毎年春頃に観られるお腹パンパンのメスにどんどん産卵してもらえば…

 往年のカシワハナダイフィーバー復活も夢ではないかもしれない。