全長 6cm
水納島の砂地で潜れば、ごくフツーに見られるカタボシオオモンハゼ。
「フツー」といってもいろいろあるけれど、カタボシオオモンハゼの場合は半端ない「フツー」で、砂底を這うタイプのハゼでカタボシオオモンハゼほど住まう場所を選ばないハゼはいないといってもいい。
場所を選ばないしその場所にはたくさんいるとくればもう、「どこにでもいる度」断トツナンバーワンかもしれない。
しかしそれが仇となって、一般健全ファンダイバーにとってはセスジサンカクハゼどころではない究極の通行人Aの地位に甘んじているカタボシオオモンハゼである。
カタボシオオモンハゼは環境によって普段の体色の濃淡を変えるらしく、濃い色をした砂泥底で撮られた写真と比べると、水納島の白い砂底にいるカタボシオオモンハゼはあまりにも白っぽく、別の種類かと見紛うほど。
その名の「肩星」もまったく意味不明だ。
ところが、おそらくは繁殖期の興奮モードなのだろう、初夏に出会ったカタボシオオモンハゼは、普段とは全然違う発色をしていた。
これなら「肩星」の名もわかりやすい。
常時これくらい発色していてヒレも全開モードであればともかく、普段はルフルンルフルン雪ウサギのごとくほぼ白一色で目立たず、そのうえそこかしこにいるとなれば、気に留めたことすらないという方が多くても不思議はない。
でも今や大容量記憶メディアのデジタル時代。前世紀の36枚+Eコマ限定だったフィルムとは違って、このような脇役たちにも目を……いや、カメラを向けるダイバーが増えているかもしれない。
注目していなくても、エビカニ変態社会の方々のようにガレ場の石をひっくり返していると、石の下からカタボシオオモンハゼが姿を現すこともある。
石の下の巣穴で卵を守っているのだ(残念ながら観ただけで写真は無い)。
さすがにビックリしていったんその場から逃げ去るカタボシオオモンハゼながら、ひっくり返した石をまたもとの状態に戻すと、再びその場に戻ってくる。
そんな健気な暮らしの一端を覗いてしまうと、通行人Aに過ぎなかったカタボシオオモンハゼが、やけに温かみのあるキャラクターとして存在感を増すに違いない。
一方、カタボシオオモンハゼだというのに、思わず「おッ?」と期待を抱かされてしまうケースもある。
近年は海底にわざとガラス瓶を設置して、レアもの人気者のハゼを招き寄せるという自然矮小化ガイドが一部で流行っているのはみなさんご存知のとおり。
そのようなわざと設置したものではなく、あくまでもゴミとして転がっているガラス瓶もある。
ゴミなら回収してBCのポッケにでも入れてしまうのだけど、あるとき栄養ドリンク剤系茶色の瓶の中に、小さな魚の気配が察せられた。
これはひょっとしてめずらし系のハゼかな?
ちょっとばかしワクワクしつつ、瓶の口から顔を見せてくれるのを待っていると……
…カタボシオオモンハゼでやんの。
小ぶりなガラス瓶は、彼らにとっても格好の巣穴になるようだ。
せっかくだからそのままジッと観ていると……
…アクビをした。
地を這いながら海底を漁る食性だから、口は下にビヨンと伸びる構造らしい……。
こういうこともたまにあるので、通行人Aとはいえカタボシオオモンハゼの顔はけっこう見慣れている。
なので、その顔に異変があると、思わず「ん?」となることもある。
左目の後ろが変でしょう?
これは模様じゃなくて、プクッと膨れている。
おそらく寄生虫なのだろう。
カタボシオオモンハゼのように海底をウロチョロする魚につきものの憑き物なのかと思っていたところ、その後もこの寄生虫をつけているカタボシオオモンハゼはちょくちょく目にするのに、他の魚についているのを一度も観たことがない。
カタボシオオモンハゼ専属??
つく場所は目の後ろとは限らず、頬のあたりについているものもたまに見かける。
しかも↑コイツの場合は、反対側にも!
こ……これは、是非……
正面から観なければ!!
ワッ、こぶとり爺さん!!
可愛く言えば頬袋にエサをいっぱい溜め込んだシマリスのような、擬人化すれば往復ビンタ100連発喰らったヒトのような、とんでもない正面顔になってしまっている。
このカタボシオオモンハゼ専属(?)の寄生虫の正体も気になるところながら、こんな事態になっていても、他のノーマルな仲間たちと一緒になってフツーに海底のエサを漁っていた。
カタボシオオモンハゼ、実はなかなかのツワモノなのかもしれない。