(アゴアマダイ属の1種)
全長 12cm
ズルズルと長引いていた今年の梅雨時のこと。
その日のゲストは県内在住のセルフダイバーご夫妻だったので、我々もカメラを携えて潜っていた。
特にこれといった目当てもなく砂底を彷徨い始めたところ、前方でなにやら見慣れない魚が体を縦にしてホバリングしている。
え?イッテンアカタチ??
…と見紛うほどのサイズのその魚は、ワタシの気配を察知したのか、海底に降り立ち、どうやら巣穴に入ったらしい。
近寄ると引っ込んでしまうか、と思いつつも他に確かめようがないので近寄ってみたところ……
ありゃ?ジョーフィッシュ??
でもコイツ、たまに会うホシカゲアゴアマダイと比べたら、とんでもなくでっかい!!
海中での見た感じは足の親指くらいあったから、実寸は手の親指くらいだろうか。
そのサイズはまさにジョーフィッシュの王様(水納島限定)、略してキングジョー。
近づくと引っ込むかと思いきや、引っ込まずに顔色が変わった。
引っ込まないどころか、少しずつ身を乗り出してきた。
あたりを警戒するジョーフィッシュといえば、せいぜい顔の部分だけを穴から出してキョロキョロ…という感じなのに、コイツときたら胸ビレのあたりまで外に出して、その胸ビレをずっと上下に動かし続けている。
で、ときおりこちらを振り返る。
さらに身を乗り出して反対側を向く。
最初からこのように随分リラックスモードだったので、これはひょっとしてもう一度全身を露わにしてホバリングしてくれるかも…
…と期待し、けっこう離れて待ってみることにした。
すると、大きめのベラが頭上を通りかかると穴の中に一瞬姿を隠す一方、周りにたくさんいるハワイトラギスあたりが近くに来ると、おいおいおいッ!とばかりに身を乗り出して威嚇するキングジョー。
ホバリングのタイミングも近いか?
…と思ったら、身を乗り出して大きく開けた口で手前の石をくわえ、巣穴に蓋をしようとするではないか。
ただ、近くまで引き寄せたところで顎から石が離れてしまった。
ではもう一度蓋をしようとするところを撮らせてもらおう…
…と思ってちょっと近づいてみたところ、以後2度と蓋をしようとはしなくなった。
結局40分近く対峙していたものの、残念ながらホバリングは見せてくれず。
はてさて、このキングジョー、いったい誰??
これまで我々が水納島で確認しているジョーフィッシュの仲間の数こそ少ないけれど、100m以深から得られるものも含めれば彼らの仲間はけっこう多く、和名がついているものだけでも10種類以上いる。
世界の海まで視野に入れるとさらにどえらい数になり、ダイビングで観察できる種類だけでも相当な数にのぼる。
なので画像検索してみると、ジョーフィッシュの仲間たちの写真が綺羅星のごとくラインナップされているのだけれど、このキングジョーと「ビンゴ♪」なものがほとんどない(世界にはもっとでっかいジョーフィッシュもいますが…)。
そんななか、バリ島で撮影されている写真にそっくりなものがいた。
いたけれど、学名、英名、もちろん和名もなし。
となれば、ここではもうこのジョーフィッシュのことは「キングジョー」で押し通すしかない。
そこでフト思い出したのだけど、昨年(2020年)の真冬にニシキオオメワラスボを追跡していた際、彼が避難場所に選びかけた(ように見えた)ジョーフィッシュは…
…キングジョーの若い頃だったのだろうか?
ともかくもこれまで水納島では3種類しか確認できていなかったジョーフィッシュに、新たなメンバーが加わった。