全長 40cm
体の黄色い模様を小判に見立てての命名らしい。
どちらかというと大判といっていい大きな体で、30cm超の魚体をドテッと岩上で休めている姿がときおり観られる。
ときおり観られるのに、おそらくフィルム写真時代を含めても、上の写真を撮るまでずっと長い間撮ったことがなかった。
わりとフツーにいるのになぜだろう…
…と思ったのは2017年のことで、翌2018年には、夕刻以外ほとんど目にしなくなってしまった。
ちょくちょく目にすることができたのは、2017年だけの話だったのだろうか。
そういうわけで、日中はほとんど姿を見かけないコバンヒメジながら、夏前の夕刻となると話は別だ。
こんなにたくさんどこにいたんだろう?というくらいに、夕刻になるとコバンヒメジたちはなにやらアヤシゲに集まり始めるのである。
集まり初めは一緒にいるけどバラバラで、なんだか交渉が決裂してしまった経済会議のような、意志不統一の気配が見受けられる。
これはやはり、間近に迫る夕刻のメインイベントを迎える繁殖生態に関係しているのだろうか。
そうこうするうちに、ただジッとしていただけだったコバンヒメジたちが、突如狂ったように熾烈なチェイスを始めた。
写真にはすべて収まりきっていないけれど、その数10尾ほどで、どれも大きく育ったコバンヒメジが、憑りつかれたようにリーフ際を集団で行ったり来たりしているのだ。
コバンヒメジって、こんなにたくさんいたのね…。
どさくさまぎれに、オオスジヒメジまで紛れ込んでいることも。
オジサンも夕刻にフィーバーがかかると泳ぎ倒すけど、たいていの場合それは可視範囲で繰り広げられる。
ところがコバンヒメジは大型のためか、ひとたび集団がダッシュすると、透視度20m超はあっても視界から消えるくらい遥か遠くまでドドドドドドッと行ってしまっては、やがて同じ勢いで帰ってくるから、その見えないところで何が行なわれているのかまではわからない。
大きいために、必要とするフィールドが広すぎるのだろう。
大きな個体が狂乱のチェイスを繰り広げている一方、それよりも小ぶりな、おそらくはメスと思われるコバンヒメジはというと…
ソメワケベラから入念なスキンケアを受けていた。
ホントに入念過ぎるほどで、さほど商売熱心とは思えないソメワケベラが、なんだかいつになく一生懸命仕事をしている。
スキンケアの様子を見ているうちに、さきほどまでの大型個体同士のチェイスはひと区切りついたのか、気がつくとこういう集まりに変わっていた。
オスらしき大きな個体が1匹と、その傘下にあるらしき小ぶりな個体。
冒頭の交渉決裂時のようなバラバラな集合、そして熾烈なチェイスは、こういう形におさまるまでの一連の段取りだったのだろうか。
さらにこのあと、いよいよメインイベントが待っていた……
……んだろうけど、残念ながらタイムアップ。
このあといったい何が繰り広げられるのか。
いつ訪れるかわからない次回の楽しみにとっておこう。