全長 25cm
昔の図鑑には「ヨゴレフグ」という名でも載っていることが多かったコクテンフグ。
その名のとおり、体、特にお腹側に、黒い点々模様がシミのように点在している。
その模様を泥はね的な汚れ具合いに模したのであろうヨゴレフグという名前も、コクテンフグという名前も、このフグの第一印象を表しているとは言い難い。
一方英名は、その名もドッグフェイス・パファー、すなわち犬顔フグ。
この英名こそ、このフグの特徴を表しているといっていい。
なにしろこのフグの顔を前から観てみると……
まさに犬!!
それも血統書付きの由緒正しいブランド犬などではなく、なにやら出自怪しげな雑種犬だ。
こうして顔だけ見るとややコソ泥チックに見えなくもないけれど、体全体を見るとアザラシにも似ている。
なんだかカワイイ。
これだったらアザラシフグでもいいのに…ってなところだけど、コクテンフグには随分カラーバリエーションが多い。
他の多くの魚同様、体色の濃淡はある程度自在に変化させることができるようで、ほぼ黒に近い濃紺のコクテンフグを観ていると…
観ている間に鼻梁(?)部分が白くなっていった。
この子がこのままもっと薄くなって、冒頭の写真のような色合いにまでなるのかどうかは不明だ。
カラーバリエーションは、濃いか淡いかだけではなく、↓こういうものも普通に観られる。
岩場のポイントでよく観られるこの半分黄色タイプも、背側の濃淡を自在に変える。
ま、何色であれ基本的にドッグフェイスだから…と安心していると、この半分黄色君の顔は……
全然犬っぽくない。
また、体の色は淡いタイプなのに……
眼や口の周りの黒まで薄くなって、犬っぽい特徴が消えつつある子もいる。
これはホンソメにクリーニングしてもらっているからなのか、それとも常時こういう色なのか、撮った当時の記憶がなくなっているので残念ながら不明だ。
その他、ブルーっぽいものや…
三色組み合わさったような色味のモノもいる.
島の北東側と西側で砂地のポイントと岩場のポイントに大別される水納島では、砂地で観られるものは淡いブルー〜グレー〜薄いグレーの個体が多く、全身黒っぽかったり半分黄色だったりするものは、岩場で見かける場合がほとんどだ。
このトリコロール状態のコクテンフグは、その砂地のポイントと岩場のポイントのちょうど境界付近にいたもので、環境的にもリーフ際から水深25mまでは岩場っぽく、そこから先は砂地のポイントのような雰囲気の場所だった。
いずれにしても結局のところ、いったいどれが彼ら本来の色なのかさっぱりわからない。
もっとも、コクテンフグの5cmほどのチビチビは、これまで出会ったことがあるすべてが冒頭の写真のような薄いグレーだった。
となると、もしかすると基本カラーはこの明るめのグレーなのかも。
犬みたいな顔をしてはいても、フグだけに彼らは内臓に強力な毒を持っており、そのうえコクテンフグは筋肉にも毒性があるという話もある。
そんなデンジャラスな魚をわざわざ襲うプレデターはいないからだろう、ダイバーに追われでもしないかぎり、コクテンフグはいつものんびりしている。
のんびりしすぎてだらしなくなるほどに。
こうしてプカプカ泳いでいることも多い一方で、昼間からピトッ…と専用個室に収まっていることも多い。
誰にも襲われないのだから、何もわざわざ狭苦しいところで休憩しなくてもいいのに…
…と、彼らの休憩シーンを見るたびに常々思っていたのだけれど。
魚の世界にもやはり、モノの道理をわきまえないヤツがいる。
ニジハタの稿でも紹介しているとおり、何を血迷ったのか、コクテンフグに喰らいついたニジハタ。
コクテンフグは食べられてしまわないよう膨れたまま、ニジハタの口はこれ以上開かない……
…となってしまったのか、互いににっちもさっちもいかなくなって、ワタシが観ている間ずっとこのままだった(さすがに岩陰の暗がりに避難していた)。
いつどこで出くわすか知れたものではないオロカモノにちょっかいを出されないためにも、コクテンフグはピトッ…とハマって休憩する必要があるのだろう。
※追記(2026年3月)
本文中でも触れているように、コクテンフグはサンゴの上などに載って、ドテ…と休憩していることが多い。
その様子は一見無警戒のように見えるのだけど、顔に似合わず警戒心が強く、カメラを向けるとソソソ…と体を回し、そのまま逃げ去っていくことが多い。
ところが場合によっては、カメラを向けて近寄っても、すぐには逃げ去らないこともある。
クリーニングケア中のときだ。
2月(2026年)の寒いさなかのこと、傷んだサンゴの上で休憩していたコクテンフグが、ホンソメワケベラのクリーニングケアを受けていた。
知らないと内緒話をしているだけのように見えるけれど、クリーニングケア中のホンソメワケベラの手(?)は片時も休む暇はない。
エラ穴の中まで入念に。
ホンソメワケベラの稿でも紹介しているように、彼らのケアは口で何かを排除するというだけではなく、腹ビレによる絶妙タッチというメニューもある。
もちろんこのコクテンフグに対しても、必殺技の悩殺腹ビレマッサージに余念が無い。
これは患者さんにとっては相当心地よいらしく(実際気持ちがいい)、コクテンフグもたちまち「ああ、そこは…!」ってな感じになる。
コクテンフグが普段エサを食べている時にも口を開けている様子を見かけるものの、そういう時は歯を剥き出しているから相当人相が悪くなる。
それにひきかえ、こうしてウットリしながら口を開けていると、いかにもコクテンフグって感じでカワイイ。
この時は動画も撮らせてくれたんだけど、いくらクリーニングケア中とはいえ、こうして長い時間近くでカメラを向けていたら、さすがに嫌がって逃げていきそうなものなのに、観ている間ずっと極楽極楽…状態だったコクテンフグ。
翌日もこのコクテンフグは同じ場所で休憩していたところからして、このホンソメ、相当なテクニシャンなのかもしれない…。