全長 7cm(写真は3cmくらいの若魚)
今のようなネット社会になる前、我々のようなシロウトが魚についていろいろ調べるには、図鑑が唯一最大の手がかりだった。
そんな昔のこと、コウワンテグリを図鑑で調べてみると、似ているヤマドリやセソコテグリとの見分け方について、
「尻ビレ軟条がその第一軟条をのぞき、すべて先端で分岐していることで区別できる……」
と書いてあった。
標本を机上で精査するアカデミック変態社会の方々ならともかく、清く正しい一般ダイバーにはなんの役にも立たないんですけど。
とりあえずヤマドリは沖縄にはいない。
でもセソコテグリはいる。
コウワン=港湾テグリというだけあって、コウワンテグリは浅いところでよく見られる。
冒頭の写真の子も、当店のボート係留用アンカーをかけてある基盤岩上にいたものだ。
ナガウニがあちこちにいるような浅いところ。
彼らは浮遊生活から着底生活に移る極小時代、その着底する環境によって体色が左右されるという。
セソコテグリあたりはかなりその傾向が強いことが、実感としてわかる。
コウワンテグリもきっとそうなのだろうけれど、なにしろ桟橋脇やビーチ内でしか目にしたことがないから、同じような色合いのものしか知らない。
リーフ際あたりでセソコテグリと住処が重なっているようなコウワンテグリがいたとしても、ワタシはもうそれをセソコテグリと認識してしまっているかもしれない。
なので当コーナーのセソコテグリの稿で出ている写真は、皆が皆ホントにセソコテグリだと信じないほうがいいですよ…。
いずれにせよ幼魚の頃は、総じて背面側が真っ白なのだそうだ。
そうするとこの写真の子は、オトナにになりかけの若魚ってところなのだろう。
さすがにこの子はコウワンテグリで間違いない(と信じている)。
体色は地味ながら、白い部分はクッキリと白くてメリハリがあり、口元はなにげにルージュ。
これからもう少し成長すると黒味が多くなる。
それでもやはり、口元はなにげにルージュ。
海水浴場エリアが今のように死の世界ではなく、もっと生命に溢れた輝く世界だった頃には、ユビエダハマサンゴの群落の傍らのちょっとした陰で、コウワンテグリにちょくちょく出会えたものだった。
それが今や彼らが住まうには具合いが悪くなってしまったようで、コウワンテグリに会えるところといったら桟橋脇周辺、まさに港湾テグリになっているっぽい。
浅いところでフツーに会えるコウワンテグリだけに、水納島でも昔はネズッポの仲間のなかで最も手軽に会える身近な種類だったはずなのに、今じゃなかなか会えない魚になってしまっているのだった。