全長 60cm(写真は30cmほど)
近年こそちょくちょく見かけるようになってきているマダラハタ、しかし前世紀末頃はなかなかその存在に気づけなかった。
当時ホントにいなかったのか、目が節穴だったのかということの前に、そもそも当時のワタシはマダラハタという存在を認識していなかった。
認識してはいなかったけれど、観たことがないハタの仲間ということはわかる。
なので90年代末頃、まだフィルムで写真を撮っていた頃に出会った15cmほどの未成魚らしきハタも、正体はその後長い間ナゾのままだった。
尾ビレ付け根付近の黒斑や、鼻の周辺の黒い模様など、今の世ならその特徴を頼りに画像検索すればたちどころに正体が判明するだろう。
けれどその名のとおりまだら模様のオトナとはかなり異なる体色のため、図鑑で調べてもこれがマダラハタの若魚などとは思いもよらなかったのだ。
だからといって名無しじゃ不便なので、鼻の周りの黒斑をもとに……
…「ハナモゲラ」というクロワッサンネームを勝手につけておいた。
その後、この特徴が明記された図鑑に出会ったからだったかなんだったか、ハナモゲラの正体がマダラハタであることをようやく知ることとなる。
不思議なことにその後は、上の写真のような幼い個体と出会うよりも、マダラハタらしい模様が出てきている30cm前後の子に会う機会のほうが多くなっている。
↑これで30cmほどで、もう少し大きくなるとこんな感じ。
まだら模様は気分や環境で濃淡が変わるようで、この同じ子が明るい砂底に出てくると……
まだら模様が薄くなり、ハナモゲラ度が際立つ。
でもマダラハタの成長過程においては30cmちょいほどなんていったらまだまだ青二才で、成長すれば60cmにも達する大きなハタになる。
水納島の海ではさすがにそこまででっかいオトナにはそうそうお目にかかれないけれど、ごく稀に砂地の根にいたりすることもある。
肝心の顔部分にまったく光が当たっていないというどうしようもない写真しか撮れなかったけれど、50cm超級のマダラハタだ。
砂地の6畳間ほどの大きさの根にこんなデカいのがいたらそれだけでビックリなのに、そのうえこのマダラハタときたら、衝撃の行動をしていた。
闇になって見えない顔の部分を無理矢理明るく処理してみると……
なにやら赤いモノを咥えているのがおわかりいただけよう。
この赤いモノとは、なんとニジハタなのだ。
ニジハタの稿でも触れているように、光がしっかり当たるようストロボの向きを変えてさらに寄ったところ、気配を察知したマダラハタは奥へ奥へと身じろぎしながら逃げていく。
なにかとかさばるデジイチではもはやどうしようもない穴倉に入ってしまったため、ここはひとつポッケのコンデジで隙間から…
…と思ったら、マダラハタは
ビュンッ!!
と穴倉の中でひと暴れ。
おかげでコンデジは砂煙しか捉えきれなかったのだけど、そのどさくさ紛れに脱出に成功したらしいニジハタが、九死に一生を得て脱兎のごとく逃げ去っていった。
マダラハタは、ニジハタがエサじゃないとわかったから解放したのか、それとも食べる気満々だったのに逃げられてしまったのか…。
食べる気満々だったのだとすれば、ハタってハタをエサにすることもあるってことになる。
50cm超級のマダラハタにとっては、根つきのニジハタなんていったら格好のご馳走になるのかもしれない。
ハナモゲラなどと妙な名前を付けてからかっていたというのに、マダラハタ、侮りがたし。
そんな大きなマダラハタは水納島ではレアながら、パラオあたりでは近年彼らの大産卵ショーが目玉のひとつになっているという。
おそらくは満月近辺なのであろう夜にそこらじゅうのマダラハタたちが一堂に会し、暗闇の中で狂乱状態になって産卵するそうだ。
その様子を写した画像や映像が、世の中にたくさん出回っているほどで、さすが魚影が濃密な海、こんな大きなマダラハタを大量に養う生産量があるのだなぁ。
もっとも、産卵ショーを狙って集まっている大きなサメたちに、マダラハタたちもまたバクバク喰われているそうな……。
※追記(2024年6月)
今年(2024年)の梅雨がそろそろ明けそう…という6月半ば過ぎの海で、人生最小級のマダラハタ・チビに出会った。
まったく別の魚を撮っているときに、足元の礫底にヒョコッと姿を現したこのチビは、せいぜいメガネゴンベのオトナほどのサイズだったから、気づいてからゼロコンマ3秒ほどは、まったく未知のゴンべの新種かと思ったほど。
でも特徴的な鼻モゲラ模様は…
…まぎれもなく「ハナモゲラ」なのだった。