水納島の魚たち

ナミダクロハギ

全長 15cm(写真は10cmほどの若魚)

 他のハギの仲間と同じく、ナミダクロハギも岩肌の藻類を食べつつ、サンゴ礁でヒラヒラしている。

 パッと見はメガネクロハギとそっくり。

 それもそのはず、一昔前までは「ナミダクロハギ」という名は存在せず、すべてメガネクロハギと見なされていた……

 という話は、メガネクロハギの稿で触れたとおり。

 ではメガネクロハギと実際にどこがどう違うのかというと。

 その最大の相違点は、目の下の白い模様の大きさだ。

 メガネクロハギの白い模様が、疲れた中年男性の目の下のタルミ程度の範囲にとどまっているのに対し、ナミダクロハギは口元まで及んでいる。

 また、尾柄部の黄色い模様にも違いが観られる。

 メガネクロハギの尾柄部は、ニザダイ類特有のスルドイ棘部分だけが黄色いのに対し、ナミダクロハギでは、尾柄部全体が黄色くなる。

 ただし、両者の中間タイプのような子もいれば、メガネクロハギとナミダクロハギが一緒になってつるんでいるケースもある。

 もともと両者を別種とするには異論もあったようながら、ここにきて「両者は同種である」などという話が逆に有力になってきているらしい。

 いずれにしてもご専門の方々の研究結果次第なわけで、我々一般ダイバーとしては、もっとわかりやすい結論に落ち着いてくれるのをただ待つしかない。

 もっとも、目の下の白い模様の大小以前に、多くのダイバーにとって「目の端にチラッと映る程度」で終わるハギの仲間たちだから、目に留まらず気にも留めないヒトのほうが多いかもしれないけれど……。

 ナミダクロハギの涙は、多くのダイバーにスルーされるがゆえの一滴なのかもしれない。

 追記(2020年4月)

 昨年(2019年)4月に、普段あまり行かないところでナミダクロハギやメガネクロハギをチェックしてみたところ、潮通しのいいドロップオフ環境の棚の上には、両者がわりと多く観られることに気がついた。

 ナミダクロハギのほうが多いように感じたのは気のせいかもしれないけれど、ずっとナミダクロハギを観ていると、彼らはビミョーに体色を変えることにも気がついた。

 もともとメガネクロハギに比べると黄色味が多いように感じていたナミダクロハギは、岩肌などサンゴ周辺で餌を探すときにはさらに黄色い範囲を広げるようなのだ。

 ↓泳いでいる時。

 ↓エサを探している時。

 2つの写真が同一個体だったかどうかは記憶がすっかり欠落しているから断言できないものの、観ている間に黄色くなったり元に戻ったりするくらい、体色変化は早い。

 角度によるのかなんなのか、↓これなんか海中では相当黄色く見えた。

 メガネクロハギではこのような即席黄色変化を観たことがないことを考え合わせると、これはナミダクロハギの特徴ということか。

 すなわち両者は、やっぱり別種??