全長 不明
これまた過去の写真をふりかえっていたら出てきたウツボ。
写真につけてあるファイル名にはポイント名を記し忘れていたため、2010年3月11日に撮影したことはわかっても、どこで、どれくらいの水深で撮ったのかまったく覚えがない…。
前後の写真からすると、普段よく行く砂地のポイントの水深15m以浅あたりと思われる。
撮影した場所の見当はついた。
しかしさっぱりわからないのが名前だ。
こうして顔だけ出していると体まで白っぽいと思いがちだけど、ウツボ類には胸あたりから尾ビレまでの模様が顔周辺と随分異なるものが多く、それでいて顔周辺の色味には個体差があるから、図鑑やネット上の写真を観てもまったく「ビンゴ!」に出会わない。
頭部が黄色いということ以外、なんの特徴もないしなぁ……。
…と思いきや、なんとこの頭部の黄色が決め手になる場合もあることを知った。
どうしても種類がわからないので、ここはひとつ、いつも「忙しい、忙しい」と言いながらきっとヒマに違いない鳥羽水族館のタコ主任に訊いてみよう。
タコ主任、このウツボのお名前なんて〜の?
メールを送ると、さすがヒマな鳥羽水族館魚類責任者、日を置かず返信が届いた。
「画像、拝見しました。頭部だけが黄色い粘液(冷凍したり、死後洗浄すると体表から流れ落ちます)に覆われていることから、ナミウツボだと思います。 」
立て板に水のごとき素晴らしき説明!!
…をしてくださったのは、瀬能博士なのだった。
タコ主任が瀬能博士に問い合わせてくれたのである。
ちなみにネット上や図鑑でナミウツボの写真を観ても、とてもじゃないけど我々凡百のシロウトには上の写真と同じ種類であるとは思えない。
しかし日本が誇る魚類分類学の大家がおっしゃるのだから、このウツボがナミウツボであることに疑問をさしはさむ余地はないのである。
というわけでタコ主任、不明ウツボの正体を明か(すお手伝いを)してくれてありがとう。
過去を振り返っても、ナミウツボの写真はこの時撮った5枚だけしかないくらいだから、少なくとも水納島ではけっこうレアなウツボなのだろう。
なんで撮影当時気づかなかったんだろう?
既知のウツボの老成個体かなにかと勘違いしたんだろうか…。
ひょっとすると最初で最後の出会いだったかもしれないというのに、今回ウツボ類をまとめてふりかえってみなければ、レアとの遭遇にまったく気づけないままで終わってしまうところだった。
いやホント、過去の写真にも思わぬ発見があるものだ。
※追記(2020年4月)
その後ナミウツボの存在を意識してみたところ、意外や意外、けっして多くはないけどそれなりに出会う機会があることがわかった。
ただし冒頭の写真のような白い個体ではなく、一見しただけではドクウツボと間違えてしまいそうな色味のものばかり。
体全体の色味の雰囲気は違って見えるけれど、なるほどたしかに頭部は黄色っぽい。
こうして口を閉じているとさほどでもないその面相、ひたとび口を開けると……
かなりの凶相(別個体)。
ひと噛みされただけでただでは済まなそうなスルドイ歯がズラリと並んでいる。
もっとも、それほど大きなウツボではなく、正面から観るとドクウツボに似てはいても、横から観るとけっこうスマート。
気にしだすと他にもポコポコ出会えたナミウツボ。
ちなみに↑この子の尾ビレはこんな感じだった。
ヒバシヨウジがクリーニングケア中。
気にし始めるとけっこう会えるのに、ずっと個人的に未知だったナミウツボ。
ワタシの目がいかに節穴かということがよくわかる。
冒頭の写真のようなかなり白っぽい個体を撮っていなかったら、今もなお存在すら知らないウツボだったかもしれない…。