全長 5cm
ヒバシというからには、やはり名の由来は火箸なんだろう。
たしかに丸く広がる尾ビレは、火箸で見られる2本の箸を繋げているリングに似ていなくもない。
けれど大きさに関しては、ヒバシヨウジを見て火箸をイメージするヒトはフツーいないだろう。
ヒバシヨウジは、オトナになってもせいぜい5cm前後でしかない小さなヨウジウオだ。
小さいながらも、オイランヨウジやカスミオイランヨウジ同様底を這うことはなく、ずっと中に浮いた生活をしている。
ただし明るい表には出てこないから、ちょっとした岩陰を覗いたりしなければ、なかなか目にする機会はない。
オイランヨウジ系とは違って体が小さいためか、身を守ってくれそうな生き物に寄り添っていることが多く、同じく日中は暗がりにいるガンガゼ類のトゲの周りでチリチリと泳いでいることもある。
時には他の魚をクリーニングすることも。
ホンソメワケベラのように、いろんな魚を積極的にどんどんクリーニングするほど仕事熱心ではなさそうながら、彼らが隠れ潜んでいる岩陰で共に隠れるタイプの魚が主なお客さんになるようだ。
ウツボ類も上客らしく、身を守ってもらうお礼代わりなのか、ウツボに対してはけっこうかいがいしく働くヒバシヨウジ。
ウツボが口をあければ、間違いなく歯と歯の間も掃除したことだろう。
これぞまさしく「楊枝ウオ」。
↓この細長い口なら、ウツボの歯と歯の間を歯医者さんが考えたリーチよりもきれいにしてくれることだろう。
暗いところに隠れ潜んでいるわりには尾ビレの模様が派手な気がするけれど、実はこのハデな模様が、ウツボたちに対しての「クリーニング屋」の看板だ、という話もある。
宙に浮いて生活する他のヨウジウオ類と同様、ヒバシヨウジたちも、オスが卵を腹にズラリと並べて抱える。
でも親自体が小さいから、卵を抱えているのか抱えていないのか、ただでさえ暗いところにいるヒバシヨウジだけに、クラシカルアイではなかなか判別がムツカシイ。
上の写真はまだクラシカルアイが遠い将来の話でしかなかった頃だったにもかかわらず、ペアでいたヒバシヨウジのうちの1匹をメインにして撮ったところ、画面の中に半身だけ写っていたもう1匹のお腹に卵がビッシリ並んでいた。
ポジフィルムをルーペで観て、初めて気がついたくらいだから、クラシカルアイの方は、2匹いたらとにかくどっちもちゃんと撮っておこう。
かつてリーフ際のそこかしこにガンガゼがいた頃は、このヒバシヨウジもわりと頻繁に観ることができた。
ところが近頃はガンガゼの姿がめっきり少なくなったせいか、ヒバシヨウジを観る機会といえば、岩陰の奥の方を覗き込んで見つけることができたときくらいになっている。
ヒバシヨウジがまだ居てくれている間に、ちゃんと撮っておかねば……。
※追記(2024年1月)
一昨年のことながら、最終便が出たあと人影が無くなった桟橋脇を潜ることにしたオタマサ。
梅雨中休みにもかかわらずコロナ禍のためにビーチは閑散としており、コロナ禍中につ早めに設定されていた最終便が出た後は、まだ日が高いにもかかわらずヒトッコヒトリーヌだったのだ。
桟橋脇といえば日常的にボートを停めているところながら、普段のボートダイビングではなかなかお目にかかれないマニアックに魅惑的な魚に出会う機会が多い。
このときも、桟橋脇の物陰に潜んでいたガンガゼに、ヒバシヨウジのチビターレの姿が。
オタマサによると、15oほどの激チビだったそうだ。
といってもオトナとさしてフォルムが変わらないから、これだけじゃチビっぷりがわからない。
幸いこのガンガゼには、ハシナガウバウオの激チビターレも潜んでいたため、ありそでなさそなヒバシヨウジとハシナガウバウオのツーショットも。
オトナとチビでさほど見た目が変わらないヒバシヨウジとは違い、ハシナガウバウオの激チビ(15mm弱)は吻が短いから、チビっぷりがよくわかる。
その激チビと比してこれくらいだから、ヒバシヨウジもまた激チビターレなのだ。
同じ日に、このウニではないけれど同じ種類のガンガゼで、ナデガタムラサキゴカクガニにも出会っているオタマサ。
ダイビングの講習では「危険生物」と習うガンガゼ類ながら、自然下では様々な生き物たちの拠り所になる生き物でもある。
昔はリーフの外でもガンガゼの姿を見かける機会が多く、日中フツーに↓このようなシーンが観られたのに…
…今ではリーフの外で日中見かける機会は滅多にない。
ガンガゼ、なんで居なくなっちゃったんだろう…。
実はガンガゼがこのように観られないほうが、環境的には「健全」なんだろうか。
でもガンガゼを見かけることが多かった当時のほうが今より遥かに透明度が高かったし、無脊椎動物の種類も多様で、それらを拠り所にする生き物たちも実に様々だった。
人工畜養したサンゴを移植しようという似非エコ活動(※個人の感想です)は世の中でまことに盛んながら、「ガンガゼを殖やそう!」なんて声は絶対に出てこないのだろうなぁ…。