水納島の魚たち

ニセフタスジイシモチ

全長 5cm

 久しぶりに訪れた深めの根で、スミツキアトヒキテンジクダイのイクメンパパに出会ったのは5月半ばのことだった(2024年)。

 初めてスミツキアトヒキテンジクダイの卵フガフガシーンを目にすることができたというのに、残念ながらちゃんと撮ることができず、再訪を誓っていたところ、一週間後に再訪のチャンスが訪れた。

 ところがそこはうっかり八兵衛のこと、「再訪」のはずがいつの間にか「禁断の根」級の水深ゾーンにある根にたどり着いてしまった。

 そこには老成魚からチビまでのキンメモドキが群れ、貫禄たっぷりのアザハタがペアでゴッドファーザーになっているなど、なんともワイド向きのシーンが。

 あいにくそういうシーンを撮れる装備ではなかったため、空隙だらけの根をサーチしてみたところ、スミツキアトヒキテンジクダイの姿は1匹も無し。

 そのかわり、見慣れない特徴を備えたテンジクダイの仲間が多数いることに気がついた。

 既知の種類の若い頃なのだろうか?

 でも観たところすでにそれぞれペアになっているようだから、たとえ完熟オトナじゃなくとも繁殖可能な成魚であるっぽい。

 溜まっていく窒素に豆腐脳を侵されつつも、なんとか記録にとどめることができたこのテンジクダイ類の魚、はてさていったい誰じゃらほい?

 後刻調べてみたところ、これまで未見だったフタスジイシモチのような気がする…

 …と、ほぼほぼフタスジイシモチ認定しかけたそのとき、これとは別にニセフタスジイシモチなる種類がいることを知った。

 そしてこのニセフタスジイシモチの特徴が、この日出会ったものとまるっきりビンゴ!

 ここに、ニセフタスジイシモチ水納島初登場の日を迎えることとなったのだった。

 フタスジイシモチが伊豆あたりまで含め国内の広範囲で観られるのに対し、このニセフタスジイシモチはかなりレアケースで、数年前の情報ながら国内ではまだ西表島の海でしか観察例が無いという。

 それも水深40mとかなり深く、わざわざそんな深いところまで行ってテンジクダイ類を撮ろうなんてヒトなど、ホシノノカンザシについて熱く語りあるヒトほどの数しかいないから、世に出ているニセフタスジイシモチの画像は、親戚のフタスジイシモチに比べればかぎりなくゼロに近い。

 世に出ている画像は少なくとも、我々シロウトが観てパッとわかるフタスジイシモチとの違いはというと、背ビレ腹ビレの色味。

 フタスジイシモチが乙女の頬のような桃色に染まるのに対し、ニセフタスジイシモチの両ヒレはカレーが大好きな方の色になっているのだ。

 そのほか体の地色が透明系であるとか、「二筋」が細薄いとか、目につく違いがいろいろあるので、本家フタスジイシモチと区別するのはそう難しくはなさそうだ。

 もっとも、いまだ水納島でフタスジイシモチと出会ったことはないから、そもそも見比べる機会がないんだけど…。

 というわけで海中で実際に観ているときは正体不明だったこのニセフタスジイシモチ、それでも↓これがオスっぽいことは海中で観ていてわかった。

 で、↓こっちがメスっぽい。

 なんで初見なのに雌雄の区別がつくのかというと、前述のとおりすでにみなさんペアごとになっているから。

 テンジクダイ類ではこういう場合、いかにも卵が入ってます的にお腹が膨れているほうがメスでしょ?

 およそ5cmほどでペアになっていたから、完熟成魚であってもおそらくそれほど大きくなる種類ではないのだろう。

 たくさん集まっていたのでしばらくはずっとこの根にいるとは思うけど、なにぶん水深は「禁断」級だから、おいそれと再訪できないのが玉に瑕。

 でもやっぱりニセフタスジイシモチと認識しながら観てみたい…。

 さっそく翌日再訪してみた。

 すると前日と同じようにニセフタスジイシモチがいたんだけど、様子は前日と少しばかり異なっていた。

 オスがイクメンパパになっていたのだ(前日と同じペアかどうかは不明)。

 そして産卵を済ませたメスのお腹は…

 オスと同じくスッキリ(下がメス)。

 まだイクメンパパになっていないペアのメスのお腹は前日観たものと同じようだったから、やはり黒く色づいて膨らんでいたお腹は、卵のためだったのだ。

 イクメンパパとなれば、卵フガフガシーンを是非とも観たいところ。

 ただしなにぶん「禁断」級の水深だから、許されている滞在可能時間は限りなく少ない。

 残念ながらその限られた時間で決定的なフガフガシーンは観られなかったけれど、各ヒレを全開にしてプチフガフガっぽい動作をしてくれた。

 その口の隙間から…

 タマタマ〜♪

 ほんの少し眼ができかけているっぽい卵を覗くことができたのだった。