水納島の魚たち

ニシキブダイ

全長 60cm(写真は2cmほどの幼魚)

 これまたヒメブダイ(と思われるブダイ)のチビターレと同じく、カモメ岩近くのインリーフで出会ったブダイのチビチビ。

 リーフエッジ付近のベラブダイ保育園では目にしたことがなく、2cmそこそこのサイズながら、他のブダイのチビたちに混じりつつ、タダモノではなさそうオーラを発散していた。

 ↑タダモノではないでしょう?←共感強要

 さてさてこのチビターレは何ブダイだろう?

 帰宅後さっそく「ベラ&ブダイ」をパラパラめくってみたところ、まさにこれ!という幼魚の写真を見つけた。

 その名をイトヒキブダイというそうな。

 なんでも日本では小笠原でしか観られない種類なのだそうな。

 ん?

 ってことは、タキちゃんことタキベラ属の1種と同じく、沖縄で出会うなんていったら超レアケースってことじゃないか!!

 …と、瞬時に盛り上がりかけたのだけど、念のためとページをもう1枚めくってみると、そこにはニシキブダイが載っていた。

 イトヒキブダイとニシキブダイのチビターレの色味はそっくりながら、それでも吻端から目にかけての黄色い部分の範囲などが微妙に異なるようだ。

 もっとわかりやすい両者の区別の仕方として「ベラ&ブダイ」いわく、

 それぞれの特徴と生息分布の違いを考慮すれば識別は容易である

 のだそうな。

 盛り上がりかけたのも束の間、生息分布の違いという決定的な差はいかんともしがたい。

 というわけで、このチビターレはニシキブダイということに落ち着いた。

 ニシキブダイは沖縄近海でフツーに観られる種類らしいのだけれど、完熟オスは60cmを超えるほどだそうで、タイプ的にもサイズ的にも潮通しのいいドロップオフとか岩礁域が広いところを好むのだろうか、時に群れることもあるというオトナを認識した記憶はない。

 いずれにしてもオトナになるとやっぱり「ブダイ」で、チビターレの頃のような「タダモノではなさそうオーラ」は感じられないだろう。

 …と勝手に思い込んでいたところ。

 実は水納島の砂地のポイントの浅い浅いリーフ際付近でも、ニシキブダイのオスがフツーに出没することを知った。

 このような小さな写真だとイメージできないけど、他にフツーに観られるリーフ際のブダイたちに比べて随分体高があって、水深ヒトケタmほどのリーフ際で出会う魚としては異質にでっかいから、リーフの切れ込みの奥のほうあたりの浅いところに出現するとかなりビックリする。

 どちらかというとそういった浅いところが好みのようながら、でかいだけに行動範囲は相当広く、ときどきリーフエッジ下の海底付近でエサを物色している。

 でっかいくせに警戒心は強いからなかなか近寄らせてはくれないけれど、たまに食事に夢中になっているときは油断するのか、ゴキゲンな顔でカメラ目線になってくれることもある。

 このあたりに行けばわりとよく会える場所、があるからフツーにいるように見えて、ひょっとすると同一個体とほうぼうで会っているだけかもしれない。

 色柄的に特にどうこうという存在ではないから、写真だけ見ると「タダモノではなさそうオーラ」に包まれているとはいえ、そのデカさはそれはそれでインパクトがあるニシキブダイ。

 オトナに関しては、「出会ってナンボ」の存在感のようだ。

 追記(2023年10月)

 その後、ニシキブダイのオトナはどうやらリーフ上からリーフエッジにかけての浅いところが好みらしい…ということがわかってきて、オトナのオスと遭遇する頻度…というか、ニシキブダイと認識して出会う機会は増えてきた。

 でも全体的な個体数はやはり少ない…

 …と思っていたところ、この秋(2023年)リーフ上で陰の軍団化している錦集団に遭遇した。

 ニシキブダイのメスなんてこれまで海中で認識したことはなかったから、メスだけの集団だったら正体がわからなかったに違いない。

 でもなかにはメスサイズでありながらオスカラーになっているニシキブダイも混じっていたので、黒い子たちはそのメスであることがわかった次第。

 このようにニシキブダイたちが集団化する目的は、もっぱら食事にあるようだ。

 リーフ上の岩肌に生える藻という藻を食べ尽くすニシキ軍団、集団でいれば縄張り意識の強いスズメダイたちなど恐るるに足らず、ということなのだろう。

 でもいつもこのような集団でいるのであれば、これまでにもちょくちょく遭遇しているはず。

 初めて見かけるってことは、これは何かスペシャルイベントなのかもしれない。

 ひょっとして、集団産卵前のお祭り騒ぎとか?

 ワタシ自身は初遭遇ながら、ネット上で見ることができるニシキブダイの群れはかなりの大迫力で、なかにはリーフ上で数百匹の群れが「壁」になっている画像もあったし、オスカラーが集団になっているものもあった。

 これは「島のサイズが大きい=ニシキブダイが好むリーフ上の面積も大きい」ことによる、そもそもの個体数の違いなのだろう。

 錦でありながら「影」の軍団、壁になるほどの大迫力集団は是非観てみたい…

 …けど、水納島では難しいだろうなぁ。