全長 40cm
ニザダイは伊豆や伊豆諸島、その他本土ではお馴染みの魚で、釣り上げた状態で縦にしてみれば尾柄部の模様が漢字の「三」に見えることから、「三の字」という名でもよく知られている。
わかりやすい「三の字」という名に対し、本名(和名)の「ニザダイ」はいまひとつピンと来ない。
ニザダイのニザとは「新背(にいせ)」が転訛した言葉だそうで、「新背」とは新しくオトナの仲間入りをした若者のことを意味するのだそうな。
ニザダイとはすなわち、新入りオトナの鯛、つまり青二才の鯛ということらしい。
他のハギの仲間同様藻食性の魚だから身には臭みがあり、ジョートーなタイと比較した場合の彼らニザダイのポジションを明確に示している名前というわけだ。
ところでハギの仲間たちはたいてい〇〇ハギという名前だけれど、彼らが属している「科」はニザダイ科。
そう、あらゆるハギたちの本家本元(?)はこのニザダイなのである。
〇〇ハギではなく、〇〇ニザという名前もわりと多く見受けられるのはそのためなのだろう。
ただしニザダイの主生息域は温帯の海なのか、伊豆あたりでは群れ成している姿が観られるのに、沖縄では釣られることはあってもダイビング中にはそうそう出会えない。
当お魚コーナーでちょくちょく参考にさせてもらっている図鑑のひとつ、2008年に刊行された吉野雄輔著「日本の海水魚」では、ニザダイの分布域として
南日本、伊豆諸島、伊江島、朝鮮半島、台湾
と記されており、沖縄方面は唐突に伊江島だけが局地的に紹介されているだけ。
沖縄のダイビングシーンにおけるニザダイとの遭遇頻度の少なさがうかがい知れる。
魚類写真資料検索データベースでニザダイを調べてみると、その伊江島の他に、後年沖縄本島で撮影された写真もあった。
沖縄の海で撮影されているニザダイはこの2例だけだ。
フツーにヤフーで画像検索してみても、釣果の写真はあっても沖縄の海中で撮影されたニザダイの写真はまったくヒットしない。
ただでさえ遭遇頻度が少ないうえに、おそらくはいたとしても誰もハギなんて撮らないから、「記録」として残っていないのだろう。
そんな貴重な「沖縄のニザダイの生態写真」がさりげなく掲載されているのが、こちら。
当店ゲストでもあり、沖縄本島ビーチエントリーダイビング愛好者ワールドではこのヒトありと知られるアポガマ会、その世話人Mさんが主宰するブログサイトだ。
普段は「本島そば情報」を求めてちょくちょく拝見しているのだけれど、ニザダイの姿を拝見したこのときばかりは魚を見て色めき立ってしまった。
なるほど、真栄田岬のような地形だとニザダイも観られるのかぁ…。
残念ながら水納島では、かつて岩場のポイントで遠目に姿を目にした記憶がうっすらあるだけで、砂地のポイントでは間違いなく出会ったことはないし、もちろんのこと撮影したことなど1度もない。
そんなニザダイが、師走(2020年12月)に突如現れた!
それも砂地のポイントのリーフ際に。
オタマサによると、これ以前は水深20mちょいほどの根の近くに居たというこの魚、40cmほどと大きいので遠目でもニザダイであることがわかったのだけど、それにしても動きがおかしい。
観ていると、イヤイヤをするように身をよじりながら、だんだん近づいてきてくれた。
何かを嫌がることに気を取られているために、ワタシの存在を気にかけている場合ではなかったようだ。
それにしても、いったい何を嫌がっているんだろう?
それは……
コバンザメだった。
コバンザメが体についているのが相当イヤなようで、できることなら振り落としてしまおうと、激しく身をよじっていたらしい。
体表が傷んでいるのは、コバンザメの吸盤によるものなのだろうか?
しかし体表をよく見ると…
…ひっかき傷だらけ。
狭すぎる岩の間に無理矢理逃げ込んだために傷だらけのローラになってしまったのかも。
この時点でほぼ眼前だったので、どうせなら近くでじっくり撮らせてもらおうと思ったら、ここに至ってようやくワタシの存在に気がついたのか、ニザダイはダッシュでその場を去っていった。
初めての遭遇がコバンザメ付きという、望外のレアシーンに恵まれた師走のダイビングなのだった。
これにて水納島も、ニザダイ分布域認定??