全長 50cm(写真は30cmほどの若魚)
別名でコバンイタダキと呼ばれるコバンザメは、むしろ「コバンイタダキ」のほうがよく目にする名前だった時代もあった。
どちらの名前でもワタシにとっては子供の頃から馴染み深い魚だった。
小学生の頃に読んでいたドラえもんの四次元ポケットの中にも、「いただき小ばん」なる道具が入っていたくらいだから、一般的にも当時からよく知られている魚だったのだろう。
(@ドラえもん第13巻)
もちろんその習性も当時から有名で、コバンザメといえば大きな他の魚についているもの、とずっと思っていた。
ところがダイビングを始めてから初めてコバンザメに会ったのは、意外にも自由遊泳しているものだった。
これはおそらく、もともと他の魚もしくはウミガメにくっついていたところ、何かの拍子に離れざるを得なくなり、新たなホスト(?)を求めて彷徨っているところなのだろう。
そのため自由遊泳中のコバンザメたちに出会うと、たいていダイバーの方に近寄ってくる。
新たなホストになり得るかどうか、物色しているらしい。
その試験に合格してしまったワタシに、コバンザメがくっついたこともある。
これが素肌であれば、ピトッ…とくっついている小判の部分の感触を楽しめたことだろうけれど、あいにくウェットスーツ越しだから、残念ながらさして感覚はなかった。
このように何かにくっついているときのコバンザメは、お腹側が表になっているものだから、コバンザメの命ともいうべき小判の部分はまったく見えない。
その点自由遊泳中のコバンザメなら、体の向きの加減で大事な小判を拝むこともできる。
頭部にある小判状のこの器官は背ビレが変化したものだそうで、小判状の縞々になっているヒダヒダは普段は寝かせた状態になっている。
何かにくっつく際にそのヒダヒダを立てることによって、内部の空間に陰圧を作り出し、吸盤の働きをするのだそうだ。
吸着力は相当強力らしく、コバンザメの尾ビレを引っ張っても取れないほどだという。
ところがほんの少しコバンザメが前進する=小判のヒダヒダが寝かせた状態になると、いともたやすく吸盤の力は消滅するので、コバンザメは自由自在にくっついたり離れたりすることができるのだとか。
そんなに強力にくっついていられるのなら、どうして自由遊泳する羽目になっているものがこんなにもいるんだろう??
きっとコバンザメにもいろいろ事情があるのだろう。
水納島で観られる、コバンザメが他の魚にくっついているケースといえば、最も出会う頻度が高いのがこちら。
ご存知ネムリブカ。
このようにチョンマゲのような場所についていることもあれば、背中だったり脇腹だったり、気ままな場所にくっついている。
概して、チョンマゲ位置についているのはまだ小さな子で、大きいものほど体の中腹あたりについているような気がする。
不思議なのは。
そもそもコバンザメが他の大きな魚につく理由として挙げられる最たるものは、
労せずして移動しながらエサを確保できるから
ということだったはず。
このように日中ずっとひとところでほぼジッとしているネムリブカにくっついたままで、彼らコバンザメに利益はあるんだろうか?
その点ウミガメなら、くっついている甲斐がありそうだ。
ところで、どういうわけかウミガメについているコバンザメは、写真のように黄色っぽくなっているものばかり。
日本屈指のウミガメ写真家でもある某有名海洋写真家によると、ウミガメにくっついているコバンザメはウミガメのウンコを常食しているために、その色味が体色に表れているのではないか、ということだった。
まさかこの黄色味がカメウンチ由来だったとは…。
色味はともかく、コバンザメにとっては移動も食事も至れり尽くせりなのだから、ウミガメは願ってもないホストなのだろう。
その他、150cmほどもある巨大なヤイトハタについているのを観たこともある。
こんだけでかけりゃ、ハタといえどくっつき甲斐もあるだろう。
それとはまったく逆に、こんな魚についているものもいた。
ご存知のようにオオスジヒメジは、海中に砂煙をモウモウと巻き上げる勢いで砂中のエサを漁る。
なのでこんなところにくっついているコバンザメは、四六時中砂まみれになっているはず。
ところが、少なくとも2か月はこの状態で頑張っていて、当初はお互いに嫌がる素振りを見せていた両者は、2か月後にはすっかり意気投合(?)しているかのようだった。
このオオスジヒメジにくっついているもので、せいぜい15cm程度。
それよりももっと小さいコバンザメ・チビターレは、いったいどのように暮らしているのだろう?
このように暮らしていた。
岩陰で休憩しているヒトヅラハリセンボンに、少なくとも5匹ものチビチビコバンザメ!!
ヒトヅラハリセンボン、サイズ比でいえば、20匹くらいの大きなコバンザメをつけているジンベエザメよりも、遥かに負担が大きいかもしれない……。
こうして見てみると、水納島で観られるコバンザメのうち、大きなモノといえばウミガメについている場合くらいで、他はたいてい若い個体ばかり。
ところが、今年(2020年)出会った自由遊泳中の2匹のコバンザメは、いつになく大きな個体だった。
ホストと生き別れになったばかりなのか、ホスト物色目線で我々の周囲をウロウロしてくれたものだから、対人比も撮ることができた。
遠近感的に、対人比モデルである電車でGO!総裁A木さんより奥にいるのにこのサイズ、普段水納島でよく観るコバンザメに比べ、相当大きいことがお分かりいただけよう。
それにしてもこんな大きなコバンザメ、このように自由遊泳する羽目になる前は、いったいなににくっついていたんだろう??
黄色っぽくないからウミガメではなさそうだし、ネムリブカにくっつくにはデカすぎる。
この大きなコバンザメたちが居心地よくくっつけるサイズの魚って…
ひょっとしてすぐ近くに、未曾有の巨魚がウロウロしていたりして??
……なんて楽しくもコワい想像をさせてくれる、コバンザメ・ビッグ2なのだった。
※ちなみにコバンザメ類は世界で8種類ほど知られているそうで、ここで紹介しているものがすべて「ザ・コバンザメ」なのかどうかは保証のかぎりではありません。
※さっそく追記
今年(2020年)の8月、それから翌月と、NHKの「ダーウィンが来た!」とNHKBSの「ワイルドライフ」で、立て続けに(映像素材は基本同じ)コバンザメが取り上げられていた。
その内容と感想はこちらをご参照いただくとして、番組中で紹介されていた、コバンザメが砂底にドテッと休憩している様子、これを以前観たことがあった気がする……
…と、ずっと記憶の手の届かぬ痒いところでウズウズモヤモヤしていた。
そのモヤモヤがほんの少し薄れたときに、たしかモルディブでのことだったと思い出し、昔々のポジフィルムを探してみたところ……
あった。
うれしはずかし新婚旅行で訪れた、モルディブはバンドス島のハウスリーフで撮った写真だ(93年)。
大きい方で40〜50cmほどはあったろうか。
海底でこのように休憩していたのはこの2匹だけだったけれど、当時の薄ボンヤリした記憶がたしかなら、このサイズのコバンザメの集団が団子のようになって泳いでいる様子もハウスリーフで観た覚えたある。
その集団も、ひょっとして奄美のマグロ養殖場そばと同じように、集団で砂底にドテッとしていることがあるのだろうか。
もちろんのことながらモルディブの各島には養殖場は無いけれど、リゾート施設が排出している何かがコバンザメの栄養源になっていたりして…。