全長 15cm(写真は2cmほどの幼魚)
セジロノドグロベラとノドグロベラは同じノドグロベラ属の魚で、基本的な姿形はたしかに似ている。
チビターレの頃も姿形はそっくりなんだけど、セジロノドグロベラのチビターレが砂地の根の周りなどわりと水深があるところで観られるのに対し、ノドグロベラのチビターレはリーフ際、それも水深10m以浅の転石ゾーンで観られることが多い。
また、セジロノドグロベラのチビとは泳ぎっぷりがまったく異なっていて、ノドグロベラのチビは体をわざとくねらせ、ほとんど海藻の切れ端状態になって海底付近をフラフラ漂っている(ように見せている)。
環境に合わせて体色が変えられるのか、↓こういう色をしているものもいる。
フラフラ漂っているように見えて、カメラを向けると明らかに能動的に逃げていくから、これは漂っているのではなくちゃんと泳いでいるのだ。
小さめの海藻や千切れ藻などがユラユラしていることが多い転石ゾーンは、彼らチビターレにとって隠蔽効果抜群だからだろうか、それとも幼魚が流れ着きやすいからなのだろうか、チビターレが複数でユラユラしていることもよくある。
以上はおよそ2cm前後のチビターレたちで、これくらいのサイズだとクラシカルアイでもかろうじて魚だと認識できる。
ところがさらなる激チビターレとなると、個体によって体色は違えど、ほとんどゴミにしか見えない。
逆にいえば、ゴミや千切れた海藻にしか見えないものが魚??という点で、地味は地味でもある意味興味を引く存在かもしれない。
でもそんなクネクネフラフラチビターレが成長して3cmくらいになると……
まだ幼い印である眼状斑はあるものの、動きにも色味にもベラベラしたオトナ感が漂ってくる。
さらに成長して5cm前後になると……
ほぼほぼメスになっている。
我々がダイビングを始めた80年代半ばには、すでにこれがノドグロベラのメスであることが知られていた。
ところが性転換にともなう雌雄の体色の違いが今ほど知られていなかった前世紀には、この体色をしたベラはノドグロベラとは別の種類と認識され、「ゴイシベラ」という名前が付けられていた時代もあるそうだ。
この魚が性転換してノドグロベラになることを知った人たちが味わったであろう当時の「オドロキ」は、もはやけっして我々が味わうことができない種類のもの。
スマホでなんでも調べられるのは便利であることは間違いないけれど、それが必ずしも「楽しい」というわけではないのだ。
それはさておき、かつてはメスと別種扱いされていたオスはどのような色味をしているのかというと……
ありゃりゃ、たしかにこりゃ全然違うわ…。
もっとも、幼魚やメスの姿はよく目にしている方でも、オスに遭遇したことがある方はそれほど多くはないと思われる。
というのも、セジロノドグロベラ同様ノドグロベラも1匹のオスが複数のメスを従えているようなのだけど、幼魚やメスたちにはフツーに会えるというのに、オスと出会う機会はほとんど無いのだ。
1匹のオスの勢力圏が圧倒的に広いのだろうか。
オスに限っていえば、その遭遇頻度は近年ちょくちょく観られるようになってきたミヤケベラのオスよりも少ないかもしれない(気づいてないだけかもしれないけど)。
なので上の写真のオスに出会ったときはワタシの頭の上に「!」マークが5個くらい並び、なんとしてもこの機会に…と10分ほどストーカーになってようやく記録にとどめることができた。
そういう意味では、レアなオスこそ冒頭の写真にすべきところかもしれない。
ノドグロベラのオスとの遭遇なんてまさに千載一遇だから、ゆめお見逃しなく。
ところでノドグロといえば、今や押しも押されもしない高級魚だけど、このノドグロベラは高級魚ノドグロことアカムツとはまったく関係がない。
ノドグロ級に美味いわけでもない(はず)。
おまけにオスメスともにノドが黒いわけでもない。
で、なんで咽喉黒ベラ??
ゴイシベラのほうがよっぽどわかりやすかったのに……。
※追記(2021年7月)
ノドグロベラのオスはレアである…と信じていたところ、どういうわけか今年(2021年)2月には、砂地の各ポイントで続けざまに何度も会ってしまった。
メスがたむろしているところにたびたび茶々を入れているようだったから、繁殖関連で盛り上がる寸前だったのかもしれない。
いずれにせよ、立て続けに出会えるくらいなんだから、フツーにいるんじゃんノドグロベラのオス……
…と思ったら、その後7月になるまで、1匹も会ってなかったりする。
レアなんだかフツーに会えるんだか、どっちなんだノドグロベラのオス……。