全長 20cm
サンゴ礁魚類は三原色が乱れ飛ぶカラフルさ、ひとたび群れればトロピカル光線が四方八方に……
…と思われがちなのだけど、なかには潔いほどに華やかさを欠く魚もいる。
他に何もいないのならともかく、目を移せばそこらじゅうにカラフルな魚がいる状況では、彼らがどれだけ群れていようと、ダイバーの熱い視線はなかなか注がれない。
そんな、熱い視線とは無縁な魚たちのひとつが、このノコギリダイだ。
リーフエッジ付近や砂地の根などで比較的見応えのある群れを作ってくれているのだけれど、いかんせん体の色が地味。
周囲にいくらでも舞い踊っているカラフルな魚たちに気をとられるダイバーの視線は、けっして彼らを捉えようとしない。
それを知ってか知らずか、ノコギリダイの背中後方にある黄色い点は、いつもわびしくせつなく灯っている。
幸か不幸か(どちらかというと不幸か…)、グルクンなどの泳ぎ去るタイプの群れを除き、水納島にはこのくらいのサイズの魚の「群れ」を眺める機会はそう多くはない。
滅多に見られない「群れ」だと知るようになると、地味ではあってもやはり目が向くようになる。
ノコギリダイたちはその場でたたずむタイプの群れだから、驚かせて群れを散らしたりしないかぎり、ひとたび目を向ければ群れ集う様子をずっと観ていられる。
その場にたたずむという意味では彼らは筋金入りで、どんなにうねりが大きくとも、その場でたたずんでいたいんだからたたずみ続けます、的な固い意志すら感じさせるほどだ。
そんな群れを見せてくれるノコギリダイたちながら、ノコギリダイ=地味というイメージが先行してしまい、ノコギリダイといえばダークな体色の魚と思ってしまいがち。
で、当店ゲストも、おりにふれノコギリダイ扱いをされることが多い。
なにしろどんなに船上がにぎわっていても……
ウェットスーツは黒ばっか!!
その地味さ、ノコギリダイ級なのである。
ところが、ゲストのみなさんのウェットスーツはこの先もおそらく未来永劫黒のままであるのは間違いないのに対し、本家ノコギリダイたちは体の色の濃淡を変えることができる。
濃い色の時は…
たしかに当店ボート上と変わらぬものがある。
しかし淡い色の時は……
当店ボート上に比べ、なんだか平均年齢的に15歳は若返っている感じが……。
その場が明るいか暗がりか、浅いか深いか、岩肌に近いか離れているか、リラックスしているか緊張しているか、などなど体色変化にはいろいろ要因はあるのだろう。
濃淡いずれにせよ派手さはなくとも、ノコギリダイたちもやるときはやるのだ(ただし背ビレ付け根後端の侘しいホタルの灯が目立つのは、体色を濃くしている時)。
また、アカヒメジの稿でも触れているように、好みの場所が似通っているからか、ノコギリダイとアカヒメジはちょくちょく一緒になって群れている。
両者どちらも多く群れているところに無遠慮に突っ込んでいくと、てんやわんやの騒ぎになって……
それぞれ別々の方向に逃げるのに、しばらくするとまた一緒になって群れている。
↓これは、両者の群れが混じる前の、花いちもんめ的セレモニーなんだろうか??
こうして観るといつも一緒にいるように見える彼らながら、アカヒメジたちの行動範囲はノコギリダイよりも広く、ときにはリーフエッジを離れ、リーフ際を広範囲に行き来するほど動きもアクティブなので、一緒にいるのはのんびり休憩時限定なのかもしれない。
アカヒメジもノコギリダイも、チビの頃からリーフエッジ付近に集まり始めることもあるけれど、チビチビたちは、もう少し深い砂地の根をもっぱらの集合場所にしている。
現れるチビターレの量も場所も年によって変わるのだけど、多い時はチビながらもけっこうな群れになっている。
オトナになっても根で群れているアカヒメジとは違い、ノコギリダイはたいていの場合、オトナになる前に根から姿を消してしまう。
ホントは根に居続けたいのに居られない事情があるのか、それとも根は幼少期のサバイバルのための腰掛住居で、本来の住まいはリーフエッジにあり、ということなのだろうか。
リーフエッジで静かに群れるノコギリダイ、濃淡併せて以後お見知りおきのほどを。