全長 10cm
ヨウジウオ科に属するヨウジウオの仲間はたいてい〇〇ヨウジと名づけられているのだけれど、ウミヤッコ属の魚たちは〇〇ヤッコという名になっている。
ヤッコといえばキンチャクダイの仲間に付けられるものと思っていたから、初めてその名を目にしたときは、何かの間違いかと思ったものだった。
ウミヤッコ属で有名なものといえば、タツウミヤッコ。
幼魚の頃は他に例を観ないくらいの皮弁の多さで、ヨウジウオ類もなかなかやるではないか……と誰もが思うであろう魚だ。
タツウミヤッコほどではないにしろ、このノコギリウミヤッコもかなり皮弁が多く、体にも短いながら対になって左右に伸びている皮弁がある。
この手の皮弁だらけのヨウジウオといえばタツウミヤッコくらいしか知らなかったワタシは、この魚と出会ったとき、
「ひょっとして新種??」
と、例によって「見慣れないもの=新種」の法則を適用しかけていた。
ところが、当サイト上で読者の叡智を結集していただいた…当時まだシダリストではなかった世界のM下さんに頼ったともいう…結果、この魚はおそらくノコギリウミヤッコであろう、ということに落ち着いた。
当時はまだ手元にあった東海大学出版会刊の日本産魚類生態大図鑑にも載っているというのに、何故わからなかったのかというと、1種あたりの掲載写真点数が限定される図鑑の弱点ゆえ。
というのも、図鑑の場合はどうしても全身写真は必須で、そこで小さな写真1点限定となれば、せっかくノコギリウミヤッコが載っていたとしても、↓こういう写真になってしまう。
これではノコギリウミヤッコの奇々怪々なる特徴がまったくわからない。
ノコギリウミヤッコの特徴といえば、顔面の皮弁。
同じく皮弁が多いタツウミヤッコと比べて吻が短かく、皮弁の付き方も異なるので、違いは一目瞭然だ。
もっとも、これまで出会ったノコギリウミヤッコは2008年9月に撮った写真の個体1匹のみで、これよりもっと小さい頃や、このあとさらに成長したら皮弁はどうなるのか、詳細は知らない。
またこの1個体としか出会ったことがないから、この鮮やかな黄色の子しか見たことがないけれど、ネット上に溢れているノコギリウミヤッコの写真を見ると、体色にはけっこうバリエーションがあるようだ。
いずれにしても、何がどう「ノコギリ」なのか、名の由来がいまひとつわからないのだった。
※追記(2020年11月)
現在日本のウミヤッコ属は9種類確認されていて、ノコギリウミヤッコもそのひとつになる。
ただし現在に至るまで、水納島で確認できたのは上で紹介している1個体のみ……
…と思いきや、2014年にオタマサが撮っていたこの写真は……
どうやらノコギリウミヤッコの若魚らしい。
リーフが入り組んでトンネル状になっているような浅場の壁面で撮ったようなのだけど(本人はまったく覚えていない…)、パッと見が地味だから長い間ナゾのヨウジウオという存在のままにしておいた。
ところが画像を大きくしてよく見てみると、体の節々(?)には小さな皮弁がある。
しかしその顔には特徴的な皮弁は無い。
なので、さてはヒメトゲウミヤッコかも??と6年前に撮影されていた写真を見て盛り上がりかけた。
しかし画像で確認できる数少ないヒメトゲヤッコの写真と比べてみると、どうもこの写真の子はヒメトゲウミヤッコにしては吻が長い。
…というわけで、ノコギリウミヤッコのまだ顔の皮弁が発達していない若魚ということに決定。
そういう気持ちで先ほどのオトナの全身を写した写真と見比べてみると……
たしかに似てるかも。
……思い込みですかね?
というわけで、ノコギリウミヤッコの小さい頃はどういう顔をしているのだろう?という疑問は、すでに6年前に解決していたのだった。