全長 12cm
ダイビングに慣れてきてヨウジウオの仲間たちの存在を知るや、その後そのテの魚にビビッと反応するようになる方は多い。
そうなれば、このオビイシヨウジにもすぐさま会えることだろう。
わりと浅いところにもいるクチナガイシヨウジと比べると、やや深いところが好き…なのかクチナガイシヨウジとある程度住み分けしている?…らしく、水深20mよりも深い根のほうが出会う機会は多い。
彼らも小動物を餌にしており、獲物を狙っている時のマナザシはやはり真剣だ。
サイズはクチナガイシヨウジよりも小ぶりながら、帯模様は目につきやすい。
海中で実際に見ている時にはなかなか気づけないのだけれど、この帯模様、光を当てるとその名の「帯」模様の色がけっして単調ではないことに気づく。
帯の色は、体の後半からより鮮やかな赤になるのだ。
光を当てないと気づくことができない、オビイシヨウジのビミョーなヒミツである。
また、クチナガイシヨウジ同様、仲良く2匹でデートをしているところをよく見かける。
上の写真のようにのんびり一緒にいるときもあれば、おそらくはオスと思われる方が、やたらとやる気を漲らせているときもある。
そういう時は、オスと思われる方は随分体の色を変えている。おそらく婚姻色なのだろう。
こうして2匹一緒にいるのはちょくちょく見かけるのだけれど、とある春の朝に出会ったオビイシヨウジはひと味違った。
キングギドラ状態になっていたのだ。
きっとこれは一瞬のことで、すぐさまトリオは解消してしまう…と思ったからとり急ぎすぐさま撮ってみたところ、その後もずっと彼らはトリオのまま、周囲をウロウロ動きまくるではないか。
カメラを向けてパシャパシャとストロボを光らせていてもいっこうに気にする様子もなく、1匹が移動すると他の2匹がついていく、というのを繰り返すオビイシギドラ。
1匹のメスを巡る2匹のオス…という図式かと思いきや、静止状態から移動し始めるときや方向を変えるときなどの様子を観ていると、先頭になる個体はその都度マチマチで、とにかく3匹一緒にいるのを頑なに守り続ける彼ら。
このテのヨウジウオというと、普段は地を這うようにして移動するものなんだけど、やはりテンションが高くなっているのだろう、揃って頭をもたげたかと思うと…
そのまま3匹揃ってピヨ〜ンと泳いでいたりもした。
そしてまた着地しては、トリオでスルスルスルと移動し続ける。
興奮しているからなのか、普段であれば必ず逃げるような真正面の位置から接近するカメラにも、気にすることなく向かってくるほどだ。
とにかくずっと一緒にいるオビイシギドラなのだった。
50cm四方ほどの範囲で繰り広げられていたオビイシギドラのダンスパーティ、こうして写真を見ると、普段よりもその色合いが派手になっている気がする。
やはり婚姻色なのだろうか。
トリオはただウロウロしているだけではなく、ときおり立ち止まっては、体をカクカクさせる妙な動きもしていた。
ひょっとして繁殖行動??
面白すぎてずっと観ていたら、あっという間にタイムリミットになってしまった。
ワタシがこの場を去った後も、引き続きトリオダンスが繰り広げられていたことだろう。
この彼らの動き、一連のスチール写真じゃとても伝えられないので、ムービーでも撮ってみた。
ライトが無いから動画にはまったく色味が無いけれど、そこは脳内変換してご覧ください(10秒くらいから5秒間ほど、カクカク動きをします)。
ヨウジウオ類は朝夕にデートするらしいから、日が高くなってからのダイビングではおそらく観ることができない彼らの恋の時間。
だからといって朝早く行けばいつでも観られるというわけでもないだろう。
となると、これもやはり千載一遇のチャンスだったに違いない。
ペアでアツアツだったりオビイシギドラになったりするのは、年がら年中なのかそれとも時期限定なのかは知らない。
でもお腹の育卵嚢に卵を抱えたオスの姿をちょくちょく目にするようになるのは、たいてい初夏ごろから。
卵を抱えている部分は、すぐにそれとわかるほどボコンと膨れている。
クチナガイシヨウジ同様、この膨れたお腹の裏側には、ビッシリ隙間なく卵が並んでいるはず。
1mmにも満たない小さな卵から孵る稚魚たちは、いったいどのような姿形をしているのだろう?
ビッシリ詰まった卵の数に比して、海中で出会えるヨウジウオたちの数はそれほど多くはない。
おそらくは浮遊生活を送るのであろうチビターレたち、運よくこのように砂地の根に暮らしの場を得ることができるのは、選りすぐりの強運の持ち主ということなのだろう。