全長 25cm
リーフ上の浅いところにいるときなどに、突然湧いて出てくる黒いハギの軍団。
ニジハギくらいハデハデだったらさぞかしトロピカル光線になるであろうところ、あいにく服部半蔵陰の軍団なみの黒い集団だから、なかなか一般受けはしない。
でも水納島では20cm超の比較的大きな魚体の群れなんてそうそうお目にかかれるものではないから、影の軍団の出現はそういう事情を知っているヒトにかぎり「おっ?」という瞬間になる。
聞くところによるとオスジクロハギたちも集団になって産卵するそうで、繁殖時期になると群れ集って餌を摂るようになるらしい。
でもシーズン中は時期を問わずちょくちょく群れを見かける気がするけどなぁ…。
過去に出くわした際に撮った陰の軍団写真を観てみると、それは5月6月であったり、11月12月であったりする。
それだけ見ると、水温が最高潮に達する真夏をはずした適温の頃が繁殖期、ということなのかもしれない。
ともかく浅いところで見かける影の軍団は、そういうところで岩肌の藻類などを食べているようだ。
そのため同じ食性のサザナミハギなど他のニザダイ類やアイゴ類と一緒に群れていることも多い。
彼らが好む藻は日がよく当たる浅いところにたくさんあるからか、リーフの面積が広いところを好んで群れているのだろう。
なので水納島では岩場のポイントの浅いところのほうが遭遇率は高い。
そこでは根が沖に向かって長く伸びているから彼らの餌場がわりと沖側まで続いていることもあって、それなりに水深があるところでも陰の軍団に遭遇することがある。
とはいえ基本的にエサ探しの放浪軍団だから、中層で群れ集うのが目的ではなく……
根と根の間に広がる礫底に降りては、ボイボイボイボイと藻を漁る。
ただしこの陰の軍団たち、無造作に移動しながら餌を食べているように見えつつも、さすがに伊賀忍者だけあって警戒心は強く、けっしてすぐそばまで近寄らせてはくれない。
お近づきになろうとすると、群れはすぐにサーッとその場を去っていくのだった。
そのため彼ら陰の軍団メンバー1人1人を至近距離でつぶさに観たことも撮ったこともなく、これまでの人生における絵的最接近遭遇はこれが精一杯。
…という事情があるものだから、ひとつモンダイが。
これって、ホントにオスジクロハギなんでしょうか?
我ながら今さら感満載のギモン、ニザダイの仲間は似ているものが多過ぎて、特に普段黒っぽい色で過ごしているものになると、忍者装束に隠された素顔が我々シロウトには判別不能になってしまうのだ。
判別不能といえば、幼魚はさらにムツカシイ。
昨年(2019年)11月に、カモメ岩の浜からエントリーして潜ったインリーフで出会った↓この3cmほどの幼魚…
撮った時は、それまでに何度か出会ったことがあるニセカンランハギの幼魚か…と思ったのと、このテの小さな魚に適したレンズではなかったこともあって、念のため的にテキトーに撮ってしまった。
しかしあらためて写真を観てみると、尾ビレが黄色いというニセカンランハギ・チビターレの特徴が無く、むしろこの特徴は、実はオスジクロハギのチビターレなんじゃあるまいか。
なんてことだ、人生初の出会いだったのに、超テキトーに撮ってしまった……。
ちなみにサンゴの脇など何かに寄り添っている時は濃い目の体色も、泳いでいる際には幾分淡くなっていた。
とにもかくにもオスジクロハギ、ただでさえ認知度が低いハギたちのなかにあって、黒い集団など見向きもされない率は相当高いだろうけれど、服部半蔵「影の軍団」と思えば、千葉真一率いるジャックの派手なアクションをイメージできるかもしれない。
ああ、R-50か……。