100cm
ダイビングも終盤に差し掛かり、リーフエッジ付近に戻ってきたとき、サンゴ礁の上でホワ〜…とした気分を楽しんでいるとき、ふと見上げた水面に巨大な魚影が。
小魚たちが舞うリーフ上にはそぐわないサイズの光物系、その顔を見てみると…
ワッ、ダツだ!
…という経験をしたことがある方は多いに違いない。
なにしろダツといえば、ダイビングの講習時に「危険な生物」として学習する海の生き物のひとつで、その強力な突進力のために大怪我をしたり、場合によっては命を落とすこともある…なんて話を聞かされているものだから、マジメに講習を受けていたヒトほど、巨大ダツ=スーパーデンジャラスフィッシュという図式が出来あがっているのだ。
でも(日中なら)心配御無用。
ダツの突進力はたしかに凄まじいものがあるとはいえ、それは暗闇の中で光るものに対して闇雲に突進してくる彼らの習性ゆえで、日中の明るい時にわざわざダイバーに向かって突撃してくるオロカモノはいない。
ダツの仲間はけっこう多く、種類によっては群れを作っていることもあるけれど、水納島のリーフエッジ〜リーフ上でこのように出会う巨大ダツは、そのほとんどが冒頭の写真のオキザヨリと思われる。
サヨリと名付けられてはいても、オキザヨリはれっきとしたダツ科の魚。
サヨリもダツ目の魚ではあるけれど、ダツ目ダツ科とダツ目サヨリ科では大きく異なるグループということになる(ちなみにサンマやトビウオ、そして意外なところではメダカもダツ目だったりする)。
サヨリと言いながらダツのオキザヨリは、ダツだけにもちろんのこと上下の顎がともに長い。
大きくなるダツの仲間は他にもいるのだろうけれど、エラ蓋の真ん中付近にある帯(矢印)があればオキザヨリ確定(のはず)。
上下の顎は長いだけではなく、そこには…
肉食獣系の大きな歯がズラリと並んでいる。
もちろん咥えた獲物を逃さないためにあるのだろう。
成長すれば1mを超えるだけに存在感はたっぷりで、海中から見上げた水面に2〜3匹が泳いでいる姿はオニカマスを彷彿させるほどだ。
そのわりにはリーフ上ではいつものんびりポヨヨン…と浮かび、ホンソメワケベラのクリーニングケアを受けていたりすることもあるオキザヨリ、見かけほどのハンターではないのでは…
…と思いきや。
ナガニザがリーフ際で行う大産卵祭りのピーク時には海中が真っ白になるのだけれど、その白い靄の向こうの水面付近から、巨大な魚影が砲弾のような勢いで飛び込んでくることがある。
産卵祭りの気配を察知して上層で待機していたオキザヨリが、ここぞとばかりに産卵放精中のナガニザをゲットしようとしているのだ。
それを何度も繰り返すオキザヨリ。
やはりれっきとしたハンターなのである。
大産卵祭りのさいのナガニザはトランス状態になっているのかと思えるくらいになるのだけれど、死と隣り合わせの産卵ともなれば、そりゃ狂乱状態にもなるか…。