全長 30cm
ブダイ類の英名パロットフィッシュのパロットとは、ご存知のとおりオウムのこと。
てことは、オウムブダイという和名を無理矢理英訳すると、パロットパロットフィッシュになってしまうじゃないか……
…などと文句をいうヒトはいない。
ブダイの名前なんて、マットウなヒトが生きる社会にとっては所詮そんなものなのだ。
けれど社会に与える影響がどうであれ、出会った魚の名前が知りたいワタシが冒頭の写真のブダイの名がオウムブダイであると認識できるのは、ベラベラブダイ遊びで頼りにしている「ベラ&ブダイ」(誠文堂新光社:刊)のおかげだ。
その図鑑のオウムブダイの解説によると、
「日本ではやや稀」
とある。
ところがこのオウムブダイ、水納島ではけっこうな頻度で目にする。
多いから時にはケンカもしている。
状況的に「友愛」を示す行動ではなかったから、まずまちがいなくケンカなのだろう。
こういうオス同士のバトルは往々にして繁殖を巡る興奮モードの時ならではだろうに、これを撮ったのは昨年(2020年)1月のことで、真冬も真冬のことだ。
はてさて、彼らは冬でもメスたちと熱いひとときを過ごすのだろうか…。
…と思っていたところ、今年(2021年)の3月には、オウムブダイがペア産卵をするのを目撃した。
暦上は春とはいえ海中はまだまだ1年を通じて最も水温が低い時期だから、3月も寒さは真冬同様なのに……。
そういえば、夏場にはシャカリキに繁殖行動をとっているハゲブダイもまた、真冬にペア産卵していた。
ブダイって、なにげにオールシーズンプレーヤーなんだろうか?
普段ならオウムブダイが産卵するのを目にしても、「へぇ、冬でも産卵するんだ…」で終わったであろうところ、ブダイ眼になっているこの冬は、産卵のおかげで大事なことがひとつ判明した。
そう、オウムブダイのメスの姿。
↑これはワタシの目の前でペア産卵したオウムブダイの片割れで、産卵後ずっと眼を放さないまま10秒後くらいに撮ったものだから、オウムブダイのオスが「ブダイはブダイ」と開き直って種類を問わず産卵パートナーにしているのでもないかぎり、オウムブダイのメスであることはまず間違いない。
言われてみれば、「ベラ&ブダイ」でわかりやすく絵で解説されているように、腹ビレが朱に染まっている。
ということは、彼女と一緒に泳いでいた↓こちらも……
オウムブダイのメスなのだろう。
これほど体色の濃淡が違っていても、腹ビレの朱色だけを信じていれば、オウムブダイのメス認定は可能だ。
目の前で産卵してくれたおかげでメスを認識することができたところ、メスの姿もけっこう目につくことがわかった。
ただし一緒にいるからといっても同じ種類だとは限らないし、腹ビレを閉じていたら…
…朱いような気もするし、そうでないような気もするので(海中で見たら)、メスの数はハッキリわからない。
一方色柄でひと目でわかるオスはといえば、砂地のポイントのリーフエッジ付近から沖合10mくらいまでの範囲に多く、ワタシの視野程度、すなわちブダイの行動範囲に比べればかなり狭いエリアの中でさえ、冒頭の写真のようなオスの体色を示しているものたちが5匹くらい泳いでいるほど。
おかげで探すまでもなく、オウムブダイのオスのほうから姿を見せてくれる。
ときにはのんびりホンソメケアも受けている。
狭い範囲に居合わせているオス同士が出くわしたからといって、ことさら縄張り争いのケンカをしてはいなかったけれど、S級美メスが現れたりしようものなら、たちまちバトルロワイヤルモードになったりするんだろうか?
ところで、数多いオスを観ていると、その体に白いブツブツがたくさんついていることに気づく。
これはヤマブキベラなどリーフ際で心無い業者に餌付けられている魚たちによく観られ、食物連鎖の関係か、リーフ際の肉食魚にもちょいちょい見られるものだ。
でもブダイ類といえば基本的に藻食で、餌付け魚のブツブツの原因と思われる食品添加物とは関係なさそうなんだけど…
…と思っていたところ、オウムブダイの中には宙を漂う何かをパクつくものもいた。
千切れた藻認定でパクついていたのか、それとも動物プランクトンもエサにしているのだろうか。
だとすると、ブダイの中ではほぼ彼らにのみ観られる白いブツブツの理由も、なんとなくわかる気もするのだった。