全長 30cm(写真は4cmほどの幼魚)
ついに手をつけてしまった禁断の「ブダイの仲間たち」、そのなかでしつこいくらいに繰り返し述べているように、ブダイ類のチビチビには黒っぽい地に白っぽいシマシマというパターンが多い。
そのためどれもこれも同じように見えるし、実際に「これをもってハゲブダイとす」という区別のポイントは、冒頭の写真ほどの成長段階には存在しないようだ。
ではなにゆえ冒頭の写真がハゲブダイである、と紹介しているのかといえば、それは……
ハゲブダイっぽいから。
だって……少なくとも「ハゲブダイじゃないはず!」と異論噴出するほどの否定要素は見当たらないでしょ?
もひとつオマケに理由を言えば、水納島の場合、「ブダイといえば」と問われて出てくるブダイの仲間ベスト3にランクインするほど個体数が多いってこと。
オトナの数が多いのだから、チビチビだってそりゃ多いでしょう。
このシマシマチビチビも……
リーフエッジ付近のサンゴ群落にあるベラブダイ保育園では、フツーにたくさん観られる。
…って、冒頭の写真の子と比べてなんだか色味が淡い気もするから、↑ヘタをするとここにいる全員がハゲブダイじゃないかもしれない。
その可能性を降水確率風にいうと、70%ってところなので、まったくアテにしてはいけない。
一方で↓こういうものもいる。
冒頭の写真の子と似たようなもんじゃんてなところながら、黒地と白線の太さの割合が随分違うでしょ?
ちなみに↑このチビは、カシワハナダイがいるような砂地の根の傍らにいたから、暮らしの場的にますます別の種類のウタガイが…。
おそらく以上のうちのどれかはハゲブダイなんだろうけど、じゃあハゲブダイじゃないモノたちはいったい誰?ということは皆目わからない。
小さいうちはシマシマだけで他に特徴が無いハゲブダイながら、もう少し大きくなるとある特徴が現れる。
尾ビレの付け根に黒点が出てくるのだ。
これがハゲハゲハゲブダイの水戸黄門印(奥の子は別種のはず)。
なのでもう少し成長してシマシマが消えてしまっていても……
黒点はそのまま。
10cmくらいになると……
紛うかたなき特徴になる。
この黒点さえあれば、もう迷うことはない。
…といいつつ、気分で黒点を覆い隠すように尾ビレ付け根が黒っぽくなることもあるから惑わされてはいけない。
そして地味地味度合いはそのままに、成長してメスになる。
これで25cmくらい。
イチモンジブダイのメス同様体色をコロコロ変えるハゲブダイのメスは、このパターンの他に、黒斑などまったく関係が無いパターンもある。
どちらも同じブダイのメスだと言われても…って言いたくなるくらいの変化ながら、同じ個体がコロコロ体色を変えるところをみると、おそらく気分によるのだろう。
ハゲブダイのメスたちは、シーズン中にはよく集団になってリーフ際付近を行進している。
きっと繁殖行動の一環なのだろうけれど、なにぶん地味なのであいにく注目するヒトは少ない。
でもこのような集団がもう少し中層でチャカチャカ泳ぎ回っているときは要注目だ。
これは集団産卵に臨もうと盛り上がっている小柄なメス集団で、メスの色柄でありながらオスである「1次オス」を交え、大乱交パーティ10秒前という状況なのだ。
小柄な個体には小柄な個体なりに、大きく育った個体たちとは別に、より効率よい繁殖方法がある、ということらしい。
そんな集団には傍らでキリキリ張り切っている「オス」など眼中にないらしく、集団産卵時の「オス」の立場は観ていてもののあわれを覚えるほど。
でもそのように集団で行動するメス体色団体がいる一方、張り切るオスにちゃんと応えるメスたちもいる。
胸ビレをピンピンさせて泳ぎながら、メスの近くをグルグル回るオス。
で、盛り上がったメスはオスのもとにフラフラと導かれ、そのまま上昇してブシュッとペア産卵をする。
ボートを停めているあたりやリーフエッジ付近がお気に入りの産卵場所であることが多いから、安全停止をしている際にオスがアヤシイ動きをしていたら、産卵シーンはほぼ確実に観ることができるだろう。
そのがんばっているオスは……
いわゆるブダイブダイ色。
オスの体色にもいろいろバリエーションがあって、水納島では他に↓このようなタイプが観られる。
いったいどの色がノーマルなのかさっぱりわからないけれど、「よく観られる色」というのは環境ごとに異なるのかもしれない。
シーズン中は絶えずメスを相手にキリキリ泳いでいるようなイメージがあるハゲブダイながら、メスを相手に盛り上がっていない時は、リーフエッジ付近やリーフ際で気ままに泳ぎながら、食事をしたり、時にはホンソメクリニック。
リーフエッジ付近ではかなり個体数が多いこともあってか、警戒心が薄めのハゲブダイだから、お近づきになりやすい。
お近づきになりすぎて、食卓にまで上がってくるほどだ。
ひとくちにイラブチャーといってもその身の質は様々で、イチモンジブダイは水っ気が多いからソテーには向かないかわりに揚げ物はバッチリ。
一方このハゲブダイはわりと身が締まっているので、ソテーに向いている(※個人の感想です)。
けっこうイケるそのお味、一度味わうと、海の中で呑気にエサをついばんでいるハゲブダイの姿を目にするたび、
「バターソテー……」
と思ってしまうのだった。
※追記(2021年3月)
水温が高いシーズン中はそこらじゅうでお祭り騒ぎ的に繁殖に伴う行動でにぎやかになっているリーフエッジの魚たちも、さすがに冬のさなかとなると別キャラ状態になって静かそのもの。
水が温かい季節にはシャカシャカシャカシャカ忙しないブダイたちもおっとりしたものだ……
…と思いきや。
1年で最も水温が低い状態が続いているさなかの2月というのに、ハゲブダイのオスたちがやけに盛り上がっていた。
その下方にはメスが集まっている。
あれ?真冬なのに??
するとオスは、まるで夏場のようにシャカシャカシャカシャカメスの上でムード盛り上げ泳ぎを始めるではないか。
ま、冬の間も「オス」としての立場はアピールしておかないと、メスがそこかしこでオスになろうとするから「シゴト」はしておかなきゃいけないのだろう。
そんな儀式的な格好だけなのだろうなぁ…
…と思いきや。
ハゲブダイたちは産卵にまで至っていた(動画冒頭の一瞬)。
ブダイたち全部が全部ってわけじゃないんだろうけど、少なくともハゲブダイは、冬のさなかでも産卵してるんだ…。
初めて知った。