全長 6cm
イシガキスズメダイと似たようなところにいて、似たような生活をし、似たような名前を持つスズメダイが、このルリメイシガキスズメダイ。
瑠璃目というだけあって、鮮やかな瑠璃色の目(の周り)が美しく、全体的に見てもイシガキスズメダイよりトロピカルムードが漂っている。
ちなみに水納島の場合、上の写真のタイプより下のバージョンのほうが個体数は多い。
……って、ほとんど別種の魚じゃん。
なにがどうなったらどっちの模様になる、という法則があるのかないのかわからないものの、幼魚の頃からどちらのタイプも観られる。
ということは、これは後天的な差異ではなく、最初からどちらかのタイプになることが決まっていると思われる。
いずれのタイプも、イシガキスズメダイとは違って背ビレに眼状斑は無い(有る子を観たことがない)。
オトナには、この両者の中間的なものもいる。
タイプごとに生活環境が異なっているわけではまったくなく、いずれもサンゴ礁のリーフ上の、もっぱらハナヤサイサンゴ類の周囲で普通にチラホラ観られる。
ただ、彼らは本家イシガキスズメダイよりも行動範囲が広い。
そして、ナワバリに近寄る他の魚に対しては激しく排他行動をとるけれど、君子危うきに近寄らず、ダイバーくらいデカい相手になると、警戒心は俄然強くなる。
警戒心が強くてなおかつ行動範囲が広いということは、すなわち撮りづらいということ。
普段から逃げる魚の後姿ばかり撮っている人だと、気がつくと同じ場所をグルグルグルグル移動させられていることに気づくだろう。
そんな方に朗報が。
彼らは適当に逃げているわけではなく、ある程度通り道が決まっているのだ。
しばらく観ていればその「通り道」がわかってくるので、そこを通るのをじっと待っていればいい。
ただし警戒心は強いから、たとえ顔を見せてくれたとしても、物陰からこちらを向いて
「なんやねん、お前……」的な顔をしていることが多い。
餌場を横取りしに来たとでも思われているのだろうか。
リラックスして藻をついばんでいる……ように見えて、向けられたカメラとの間には必ずサンゴの枝かなにか、障害物が入るような位置取りをしているあたりもまた心憎い。
ひところのスズメダイマイブームの時にけっこう頑張ったことがあったのだけど、結局今に至るも、ヒレを全開にした姿は撮ることができていない。
普通に観られるのに普通に撮れない魚、それがルリメイシガキスズメダイなのだ。
そんなルリメイシガキスズメダイも、行動範囲が広いのはどうやら若いうちだけのようで、齢をとるとどうでもよくなるらしい。
写真のご老体は、98年のサンゴ白化を生き延びた大きな大きなヘラジカハナヤサイサンゴに住んでいる、ルリメイシガキスズメダイのおじい。
サンゴとともに苦楽を共にしてきたに違いない。
やたらと大きな体はヒレの端々がボロボロで、体色の鮮やかさはすっかり失われてしまっており、見るからに齢をとっている。
そんなおじいは、若い子たちとは違い、泳ぎっぷりもゆったりしている。
せいぜい大きなヘラジカハナヤサイサンゴの枝間をチロチロするくらいで、遠くまで逃げ去ることなどまずなく、すべての間合いを見切っている老剣豪のような風格さえあった。
きっとこのあたりのルリメイシガキスズメダイ界のゴッドファーザーなのだろう。
「わしの目の青いうちは、まだまだ若いヤツの好きにはさせん…」
というルリメイシガキスズメダイ翁は、死んでもなお目は青いままであろうことは言うまでもない。
※追記(2020年5月)
この年(2020年)の春は、なぜだかリーフエッジでルリメイシガキスズメダイが目についた。
この稿でも触れているように、親戚のイシガキスズメダイに比べると、縄張りにしているひとつのサンゴ群体への執着心が薄いように感じていたルリメなのに、カメラを向けてずっと眺めていても、ずっと同じヘラジカハナヤサイサンゴで頑張っている子が多いのだ。
1匹に注目してみると、枝間をスルスル行き来しつつ、枝の表面ごとにある自家培養の藻をケアしている。
そして、いつもはひとつのサンゴ群体に1匹でいるルリメなのに、ここでは同じサンゴで2匹のルリルリが同じような動きを繰り返していた。
これはひょっとして??
サンゴの枝の表面にある藻をひとつ選んで撮ってみると……
わぁ〜お、産みたてタマタマ!!
そうか、卵をケアしていたのか。
サンゴの枝表面の藻すべてに卵があるわけではなかったけれど、そうやってあらためてルリルリルリメの動きを観てみると、なるほど、かいがいしく卵をケアしている様子がわかる。
ところで上の動画では、お相手のルリルリルリメは、黒帯タイプだった。
ホントに同種なの??とワタシなどはずっと懐疑的だったこの2タイプ、一緒にいるところを観たのは初めてかも……。
ペアとなって繁殖行動をしてるんだもの、そりゃたしかに同種ですわね。