全長 30cm
沖縄でグルクンと総称される魚たちのうち、水納島でよく観られるものについては、見た目で3つのグループに大別できる。
青と黄の塗り分けタイプ。
尾ビレの先に黒いチョンチョンタイプ。
尾ビレに黒スジタイプ。
ササムロはこのうちの3番目、尾ビレにシュッ、シュッと黒スジが入っているタイプになる。
同じタイプの魚がもう1種類いて、その名をクマザサハナムロという。
クマザサハナムロは体色をコロコロ変えるとはいえ体側のラインが黄色くなることはまずないし、ササムロに比べると体高が低い。
上側がクマザサハナムロ、下側がササムロ。
群れの写真を無理矢理トリミングして1匹1匹に注目して見比べれば、たしかに両者が異なる種類の魚であることはわかる。
でも遠目に群れているとそっくりで、似たような場所で似たように群れているし、他のグルクンも含め、両者はフツーに混在している。
となると、わざわざ両者を細かく分けて案内しなくったっていいじゃん、どうせ自分も含め誰もわかんないし。
実際、↓このような状況を目にして、
「いや、これはクマザサハナムロだ」
「いやいや、ササムロだ」
なんて話にはならないでしょう?< 共感強要。
そこで、この際ササムロの存在には目を瞑り、尾ビレに黒スジが入っているグルクンは、すべてクマザサハナムロということにして案内してきたワタシである。
ところが。
今回このお魚コーナーでグルクンに手をつけてしまったので、昔に戻っていろいろお勉強し直してみたところ、なんとなんと、同じタカサゴ科のササムロとクマザサハナムロは、属が異なっているではないか。
ササムロはCaesio属。
クマザサハナムロはPterocaesio属。
ちなみに、タカサゴやニセタカサゴもPterocaesio属ということになっている。
いつになく柄にもなくラテン語表記にしているのは、属名の和名表記がややこしいから。
Caesio属はタカサゴ属、Pterocaesio属はクマザサハナムロ属ということになっているのだけど、肝心のタカサゴがタカサゴ属ではなくてクマザサハナムロ属という、「侍ジャイアンツ」というタイトルでありながら、タイガースのウルフ・チーフが主人公……のような、ヘンテコなことになっているのだ。
そのためタカサゴ属あらためササムロ属、クマザサハナムロ属あらためタカサゴ属、ということになったんだかなっていないんだか、とにかく似ているササムロとクマザサハナムロの両者は異なるグループの魚なのである。
分類階級用語の「目」だの「科」だの「属」だのという話になると途端に興味を失う方も多いからわかりやすく言うと、属の異なる魚を同じとして扱うというのは、トヨタのディーラーでニッサンの車を買おうとするのに等しい。
まぁワタシにとって自動車などは、ちゃんと動けばトヨタだろうがホンダだろうがメルセデスだろうがどうでもいいのだけど、属が違うというのはすなわちそれくらい違うモノだという話ね。
かくなるうえはやむをえまい、今日からキチンと区別するとしよう。
区別しながら観てみると、リーフエッジから近いところの上層で群れているのは、たいていの場合ササムロだということがわかってきた。
なのでボートを停めているあたりでクラゲをパクつきながら大集合しているグルクンもまた、たいていの場合ササムロだ。
動物プランクトン食のグルクンたちだから、ササムロももちろんクラゲは大好物。
なので、風の加減か何かで時々大量にクラゲが発生すると、彼らは水面付近で大フィーバー状態になる。
クラゲを求めるその目は真剣そのものだ。
クラゲでこんなお祭り騒ぎになるんだもの、そりゃサビキ釣りでグルクンたちが釣られまくるわなぁ……。
水面付近なんてフツーにボートダイビングをしているときにはほぼ無縁の場所ながら、ボートの下で安全停止をしているときなどによく観られるシーンだったりする。
安全停止中だからと腕のダイコンばかり見ていると、周りで起こっている楽しいコトに気づけないかも。
浅いところをフツーに泳ぐササムロたちだから、時にはリーフ際でも大群を作ることがある。
朝早い時間帯など、太陽がまだ低い頃なら、リーフ際でキラキラ光る水面をバックに、神々しいまでの群れになっていることも。
そうかと思えば、わりと深いところにある根でたむろしていたりもする。
上の動画で冒頭から登場する群れがササムロで、あとから(おそらく)ニセタカサゴも混じってくるところをみると、上層では両者は一緒になって泳いでいたのだろう。
ササムロたちもまた、クリーニングステーションの位置を把握しているらしく、ホンソメクリーニングを求めて根まで集団で降下してくることもある。
不思議なことに、ササムロのクリーニングシーンはよく観られるのに、クマザサハナムロの同様なシーンを目にした覚えがない。
クリーニングしてもらうにしても、群れのまま根を通過する際に束の間ケアで済ませているのだろうか、クマザサハナムロ。
その点ササムロはタカサゴたち同様グループごとにケアを受けに来るから、入れ代わり立ち代わりホンソメクリーニングステーションにやって来るその様子を、けっこう長時間観ていられる。
注目して観てみると、比較的浅いところで観られるものはたいがいササムロで、そういえばその昔まだ海と島の雑貨屋さんをオープンする前に作っていたグルクンのTシャツ、そのモデルに選んだのはササムロだった。
その理由はおそらく、当時民宿大城のおじぃが船釣りでよく釣っていたグルクンのササムロ率が高かったからに違いない。
グルクンといえばタカサゴってイメージだったけど、実際に身近なのはササムロなのかなぁ…。