水納島の魚たち

クマザサハナムロ

全長 25cm

 水納島の海にとってグルクンは、欠かすことのできない存在だ。

 クリープを入れないコーヒーならいくらでも飲めるけど、グルクンの群れがいない水納島の海なんて……

 ありえない(※個人の感想です)。

 海中で観ると体側の青い部分がネオンのように輝いて見えるクマザサハナムロの体色は、機嫌や状況でコロコロ変わる。

 そのため見慣れるまで、それらがすべて同じ種類の魚だとは思えないかもしれない。

 白い砂地の海を群れ泳ぐクマザサハナムロは、基本的に青っぽい色をしている。

 ただしこれはストロボ光を横から当てている時の色で、肉眼では先述のとおり体側の青がとっても目立つ。

 上の写真では、ストロボ光が届いていない奥側のほうが、肉眼で観る色に近い。

 また、上層から根に降下してくると、特に根の周りにたむろする時などは体色を濃くすることが多い。

 背景が暗いところで明るい色をしていたら目立つから、自然とこうなるのだろうか。

 肉眼ではほぼこのように見えるのだけど、光をあてると実は赤くなっていることを知る。

 その姿はほとんどネオンテトラ状態ながら、どちらも同じクマザサハナムロ。

 一応「興奮色」ということになっているこの赤色、いちいち根に降りてくるたびに興奮してるんだろうか……。

 ともかくそんなわけで、観る状況や撮った写真ごとに様々な色を見せるクマザサハナムロなのだ。

 彼らは普段、上層付近で群れ集い、プランクトンをパクついている。

 他のグルクンたちと一緒にいることも多い。

 こんな小さな写真じゃわからないけど、ここにはクマザサハナムロをはじめ、4、5種類ほどのグルクンがいる。

 若い頃ほど砂地の根への依存度が高いグルクンたちも、オトナになると根から離れた上層でも群れるようになり、そういう群れが何かの拍子に砂底付近に下降してくると……

 …とっても心地いい。

 そこに1人だけポツンとたたずんでいたりすると…

 ……とんでもなくゼータクなひとときになる。

 ただしモデルは、海パン一丁でたたずむオッサン1人。

 本来ならまったく絵にならないヒトをフォトジェニックにしてしまう…そんな力を、グルクンたちは持っているのだ。

 グルクンたちはジッとしている大きなモノがあると近づいてくる習性があるから、こういうときはジタバタせず、ただ静かに呼吸だけしているほうが、シアワセに包まれるチャンスは多い。

 ところで。

 年によってはグルクンの幼魚が爆発的に増えることがある。

 小さすぎると種類などとてもじゃないけどわからないものの、2010年の夏にはそのチビたちがその爆発的数のままある程度のサイズまで育ち、おそらくはクマザサハナムロであろうという模様が出てきた。

 その数たるや……

 …凄まじかった。

 まだ10cmほどの若魚だから根からさほど離れていないところで群れていて、ダイバーが根に近づくと密集隊形で海底付近まで降下してくれるものだから、いつ行ってもグルクンパラダイス。

 あまりに多いしまだ小さいので、最初はイワシかと思ったほど。

 長い間イワシ系と間違えられてきたヒメタカサゴとかホソタカサゴとは違いますよね??

 そこまでの大群ではなくとも、クマザサハナムロのチビでにぎわっていれば、彼がオトナになって根から去っていくまでの間限定で、若魚サイズの群れを楽しむことができる。

 このように若魚たちが群れ集っている根の傍を、たまたまエラブウミヘビが通りかかったときのこと。

 ノンダイバーの方が想像されるほど危険な生物ではないウミヘビは、グルクンたちにとっても衣食住すべての点で危険な存在ではないはず。

 とはいえ彼らの幼少時の憩いの場である砂地の根にとっては、エラブウミヘビは闖入者であることは間違いない。

 だからなのだろう、エラブウミヘビが通りかかるのを見るや、クマザサハナムロの若魚たちは、一斉にウミヘビ排除行動を始めた。

 横から観るとこんな感じ。

 見ようによっては、なんだかハーメルンの笛吹き男に連れ去られる子供たちのように見えなくもないけど、この場合主導権はグルクンたちにある。

 これは1匹1匹では力のない魚たちが集団で闖入者を排除する行動で、モビングと呼ばれている。

 オニダルマオコゼなど肉食系の魚の存在がバレたときなどに、ハナダイ類やスズメダイ類など根に集う魚たちがこのような行動をするのはこれまで何度も観たことがあるけれど、グルクンバージョンを見るのは初めてかも。

 涼し気に群れているようでいて、実は「熱い」グルクンたちなのだった。

 ところで、ササムロの稿でも紹介しているように、たくさんいるクマザサハナムロなのに、なぜだかササムロのようにグループでホンソメケアを受けに来るシーンを観た覚えがない。

 せいぜい群れで根を通過中にホンソメクリーニングステーションに寄り道しているらしきところを見るくらい。

 写真じゃホンソメワケベラの存在は確認できないし、この時クリーニングしてもらっていたかどうか記憶もないのだけれど、なんとなく立ち寄ってる感がある。

 ネット上の写真を探してみると、クマザサハナムロがホンソメにクリーニングされているシーンもあるから、けっして「クリーニング嫌い」ってわけじゃないんだろうけど……。

 あえて個別に注目していなかっただけに、今さらながら気になってきてしまった。

 フツーに見慣れているはずのグルクンなのに、ワタシが目の色を変えて注目していたりしたら、その視線の先ではクマザサハナムロがグループでホンソメケアを受けているんだ…とご理解ください。