全長 18cm
日本の多くのダイバーにはスルーされるサザナミハギでも、タヒチにはちゃんと現地名があって、その名を「マイト」というそうだ。
シガテラ毒の原因物質のひとつであるマイトトキシンの名は、その有機化合物の抽出元であるタヒチのサザナミハギ、すなわちマイトに由来している。
もちろんサザナミハギがマイトトキシンを体内で生み出しているわけではなく、食べ物にしている藻類が原因になっている。
……と、意外にも化学の分野で存在感をアピールしているサザナミハギながら、海中でのアピール度はまったく足りていない。
水納島では、砂地のポイントならほぼほぼリーフエッジからリーフ上にかけての浅いところ、岩場のポイントなら沖に向かって伸びる根のせいぜい10m以浅くらいでよく観られ、リーフ際あたりでは10匹前後が無造作に集まっていることもよくある。
サザナミハギは3大スルーハギの他2種よりもオトナのサイズが大きく、砂地のポイントのリーフ際の転石帯では、餌場が足りないからかもしれない。
なので、ここ一番というときに集団化するのはエサが豊富なリーフ上で、ほぼ同じ食性のナガニザと混成集団になることが多い。
イシガキスズメダイなど藻食性のスズメダイたちは気が強く、縄張りに侵入した他の魚、特に同じ藻食性の魚を追い払うため、体の大きなサザナミハギでも単独だとスズメダイたちに激しく攻撃される。
ところがこのように集団になれば、スズメダイたちは一応追い払おうとはするもののしょせん多勢に無勢、ほとんど焼け石に水程度の効果しかない。
↑このナガニザ&サザナミハギの影の軍団の行進の際にも、画面の端々でイシガキスズメダイがアタックしている様子がうかがえる。
サザナミハギにとってみれば、さしづめ「スズメダイ みんなで渡れば 恐くない」ってところなのだろう。
もっとも、このように集団化するのは「ここ」という時だけで、おそらく産卵前の栄養摂取祭りモードの時ではないかと思われる。
集団化している際には黒っぽくなるサザナミハギは、他のニザダイ類同様体色の濃淡は自在に変えられるので、濃くしている時もあれば……
薄くしている時もある。
概して、のんびりしているときは白っぽく、ダイバーの接近を警戒してその場を去る時は黒っぽくなるような気がする。
ワタシの接近をやや警戒しつつも、目の前のエサに気が向いているときは↓こんな感じ。
岩肌に付着している藻類が好物の彼ら。
その口は岩肌から藻類を剥ぎ取るのに特化しているらしく、食事中の彼の口元は、普段とは随分違った様相になっている。
ヤツメウナギですかッ!?ってなくらい。
この勢いで藻が食べられれば、岩肌が藻だらけにならず、他の生物が住める多様性をキープできることだろう。
彼らニザダイの仲間たちが毎日セッセと藻を食べてくれるおかげで、海中は手入れを怠った水槽のような状態にならずに済んでいるのだ。
彼らサザナミハギが藻を食べるのは、岩肌ばかりとは限らない。
時にはウミガメの甲羅に生えた藻だって、パクパク啄んでいる。
アオウミガメにとっても、ジッとしているだけで甲羅がきれいになるのだから、願ったりかなったりというところなのだろう。
前述のとおりサザナミハギは3大スルーハギの他2種に比べてオトナのサイズが大きいから見間違えることはまずないのだけれど、若魚の場合はファインダー越しにジックリ見なければ区別がつかない。
こうして光が当たっている静止画像なら、体側に縞模様があるからナガニザではないし、目が青くなくて顔の点々が顎側には無いからコクテンサザナミハギでもない。
また、尾柄部の上下に黒い点が2つ無いから、そもそも両者ではない、すなわち彼はサザナミハギである、ということがわかる。
もっとも、地味一筋の一生を送っているように思えるけれど、ネット上で見ることができる彼らのチビターレが、ことのほかカワイイ。
サザナミハギはフツーにいる魚だというのに、これまで一度として出会ったことがない幼魚。
ひょっとして、リーフの中で過ごしているのだろうか。
そういえば、このサザナミハギたちもナガニザのように集団産卵をするらしいのだけど、それも観たことがない。
ごくごくフツーにいるフツーの魚だというのに、まだ観ぬシーンだらけではないか。
ますます「スルー」している場合ではなくなった。
※追記
2019年5月下旬に、ようやくサザナミハギ・チビターレに出会った。
コクテンサザナミハギ同様、幼魚の姿にはいくつかバリエーションがあるようで、写真の子のようにオトナにはまったく見られない派手なラインが、さらにクッキリ鮮やかなタイプもいるようだ。
とにもかくにも、これでようやく初めてのサザナミハギ・チビターレ。
ナガニザやコクテンサザナミハギの幼魚はオトナの数同様に数多く見られるのに、オトナは負けず劣らず多いサザナミハギの幼魚は、いったいどのあたりが主な暮らしの場なのだろう?