全長 4cm
水納島の夏の海を彩るスカシテンジクダイ。
夏にしか来ないゲストの方々にとっては、いつ来ても出会えるお馴染みの魚かもしれないけれど、長い冬を経てようやく夏を迎えるとともに溢れるように湧いてくるスカシテンジクダイは、もはや季語といってもいい夏の風物詩だ。
なにやら日本人の遺伝的な音感にかかわるのか、長い名称を4文字に略すのが江戸の昔からの慣習になっているそうな。
なので正式名称が長いスカシテンジクダイもまた、略して「スカテン」と呼ばれることの方が多い。
潜った回数がまだまだ少ない方々の中には、ひょっとするとスカテンという名は知っていてもスカシテンジクダイという名にピンと来ない、という方もいらっしゃるかもしれない。
そんなスカシテンジクダイ=スカテンは、水温が高くなり始める初夏になると、砂地の各根で幼魚たちがドッと増えてくる。
やがて根の周りで、満天の星空のごとき涼しげな群れで…
海を彩る……
彩る……
彩る。
砂地の根を年中彩っていたハナダイ類の数が近年は激減してしまっていることもあって、このスカテンの群れがいるといないとでは、その根の賑やかさがまったく違ってくる。
もはや夏の海に欠かせない魚たちなのだ。
彼らの登場を待っているのは、我々ダイバーばかりではない。
海の食物連鎖におけるスカシテンジクダイの群れといえば、アフリカのサバンナにおけるヌーみたいなもの。
2006年1月@ケニア・マサイマラ
捕食者たちにとっては、願ってもない御馳走だ。
そのためスカテンたちが群れ集う根には、しばしばプレデターたちが襲来する。
こんな勢いで喰われ続ければ、スカテンはたちまちいなくなってしまう……
…かというとそうでもなく、夏の間に何度も再生産(?)を繰り返してくれるおかげで、かなり長期に渡って「夏」を演出し続けてくれる。
と、ついつい「群れ」で観てしまうスカテン。
それどころか、スカテンを背景にしてうまい具合いにキラキラさせ、別の魚を主役にして撮るという、スカシテンジクダイメルヘン、略してスカメルという撮影の仕方が流行ったこともある。
地味なウイゴンベでさえ、見事に主役として引き立たせる、往年のスクールメイツのようなスカシテンジクダイたち。
しかしバックで、しかもボヤけた光でしかないその立場っていったい…。
たしかにオトナでも4〜5cmほどと小さく、おまけに体はほとんど透明ときているから、群れを眺めることはあっても、1匹1匹に注目するヒトは少ない。
そこであえて注目してみると、スカシテンジクダイたちの知られざる(知っているヒトは知ってる)特徴に気づくことができる。
内臓周辺以外は透明とばかり思っていたスカシテンジクダイの体に、小さな黒点がポチッとついているのだ。
この黒ポチ、サイズや位置には個体差があって、こういうところについているものもいる。
なかにはどっちにもついている子も。
そうかと思えば、黒ポチがまったくないものもいる。
スカテンの群れは、これらが混在しているのだ。
この黒ポチのランダム度合いは、実はあるゲストに教えてもらったもので、その方は奄美大島のガイドさんに教えてもらったとのこと。
以来、当サイト掲示板における彼女のハンドルネームは、「スカテンポチ1」さんになっていたりする。
繁殖シーズン中のスカテンの群れをよく見ると、オトナたちは仲良くペアごとに泳いでいることに気づく。
画像だとたまたま2匹でいるだけのように見えるかもしれないけれど、群れを眺めていても、ちゃんとペアごとになっているのがおわかりいただけるはず。
ペアは上下で並んでいて、下側で半魚身(?)ほど後ろに下がった位置をキープしているのがオスらしい。
これは、メスが産んだ卵をすぐさま口内に収納するためのポジション取りなのだとか。
となると、卵の受精はどういうタイミングで?
という疑問が残る。
はて、どうやっているんだろう?
スカシテンジクダイも、他のテンジクダイ魚類同様、オスが口の中で卵を保育する。
スカテンのイクメンパパたちも、他のテンジクダイ類同様に、卵を口に含んでいる時は、顎の下が広がっているから、ひと目ですぐそれとわかる。
産卵前はペアで泳いでいるスカテンたちは、産卵後オスが口内保育するようになると、なぜだか保育中のオスだけが、群れの本隊から離れた片隅で集団を作っていることが多い。
卵保育中のオスは、群れの中でも最重要の存在だから、安全地帯中の安全地帯にいるのかもしれない。
卵の発生が進むと卵1つ1つが大きくなるからか、まるでアツアツのタコ焼きを食べた人のように、絶えず口をハフハフ動かしているモノが目立つようになる。
そのような1匹に注目していると……
卵♪
クローズアップしてみると……
卵のお目目キラキラ。
テンジクダイの仲間たちが卵を口内保育することはよく知られているけれど、スカテンはついつい群れに目を奪われてしまうから、卵の様子まで気にしているヒトはさほど多くはないはず。
そういう意味では「知られざる」イクメンパパたち。
彼らの頑張りがあってこそ、夏を彩るスカテンの煌めきがもたらされているのだ。
スカテンパパは、マンテンパパなのである。