全長 12cm
写真のカサゴは、ターボスネイル生息密度調査時や、リーフ内を潜っているときなどにちょくちょく目にしていた(すべてが同じ種類かどうかは疑わしいけど…)。
といいつつ画像はフィルム時代に撮った1枚しかないんだけど、ワタシが知っているカサゴ類のどれにも当てはまらない形状をしている、というネガティブな特徴(?)のおかげで記憶に留まっていた。
その特徴からすれば、図鑑に載ってさえいればすぐに種類がわかりそうなものながら、これが困ったことに既存の生態写真図鑑にはどこにも見当たらない。
これが初めて見た魚で今後も出会う機会がなさそうであれば、そのあともう少し手段を講じたかもしれない。
ところがその気にならないくらいにちょくちょく出会えていたため(当時)、そのうちわかるだろう…と、この魚を見かけるたびについつい安易に諦めていた。
そうこうするうちに、諦めるのと同じくらい安易でありながら正体がわかる方法を思いついた。
鳥羽のタコ主任は、学生時代のその昔は魚類分類学の研究にいそしむ希望と髪の毛に満ち溢れた青年だった。
その彼の研究テーマはカサゴ類。
彼が研究に没頭していた間、沖縄県内のカサゴたちは危うくレッドデータブックに載りそうになったという(ウソ)。
そんな彼の涙ぐましい努力については、オニカサゴの仲間の稿で紹介しているとおり。
あいにく卒論生には新和名提唱の誉まではなかったものの、それまで混乱していた…というか誰も手をつけたがらなかった…カサゴ類の分類が、彼の卒論によって一歩前進したわけである。
そう、カサゴといえばタコ主任なのだ。
エビでタイを釣るのなら、カサゴはタコで釣ろう!!
というわけでメールで質問してみたところ、多忙の合間を縫って彼は以下のとおり回答してくれた。
「毎度。
画像拝見しました。もうちょっと体側の体色がハッキリすればいいんだけど…多分ねぇ…Parascorpaena(ネッタイフサカサゴ属)の1種だと思うんです。
こいつって大きさ手のひらくらいの大きさだったんじゃない?
これと同じもの(もしくは近い種類)を卒論の頃、水釜でたくさん採った記憶があります。その頃も名前がありませんでした。単にParascorpaena spp.と書かれてY野先生の標本となったはず。
☆結果:「日本産魚類検索」の、クロホシフサカサゴ(Parascorpaena sp.)が一番近いんじゃないかなぁ?
PS. 牡蠣いる?」
ちなみに最後の追伸はこの稿とは関係がない。
もちろんのこと「いる」と返事したら、本当に届いたので美味しくいただいた。
カサゴにとどまらず牡蠣まで釣ってしまえるタコってスゴイ…。
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…ということがあってから十有余年が経ち、その後も分類学的研究がガシガシ進み続けているカサゴ界の状況は、当時とはいささか異なることになっていた。
まず「クロホシフサカサゴ」と同定されていた種は、実はネッタイフサカサゴの若魚である、という、新種記載をしたヒトにとっては身もフタもない結論が出ていた。
では冒頭の写真のカサゴはネッタイフサカサゴなのだろうか。
すると今度は、ネッタイフサカサゴにそっくりのチブルネッタイフサカサゴなる種類も存在していた。
そっくりではあっても、形態的に眼の直下に棘があるか、棘ではなく隆起にとどまっているか、というビミョーなところで区別できるという。
では写真のカサゴはどっち?
わかんねぇ……。
まぁ眼の下にハッキリと棘があるようには見えないから、「チブル」ってことでいいっすよね?
ホントにチブルかどうかはともかく、ワタシ自身が当時書いていたことがホントにジジツであれば、当時はちょくちょく目にしていたはずのこのカサゴ、近年はまったく目にした覚えがない。
これまた、以前はフツーだったのに今ではレアになってしまった種類だったりして…。
またひとつ、「こんなことなら当時もっとパシャパシャ撮っておいたらよかった…」が増えてしまったかも。