全長 350cm
ノンダイバーの方が想像される「ダイビングにおける危険」といえば、なにをさておいても人喰いザメだ、ということはネムリブカの稿でも触れた。
たしかにこの地球上にはヒトを襲うサメもいるにはいるけれど、幸か不幸か……って、やっぱ幸か、とにかく水納島の周辺で映画「ジョーズ」に出てくるような巨大人喰いサメを観ることは滅多にない。
ただし「滅多に」というところがビミョーで、水納島周辺でも過去にホオジロザメの目撃例があるし、美ら海水族館に展示してあったホオジロザメの剥製(?)は、伊江島沖で捕獲されたもの、というキャプションがついていた。
また、周囲でマグロの養殖をしていることもあって、渡久地港周辺にはメジロザメ系の目撃情報がけっこうある。
メジロザメ類でもかなりでかくなるオオメジロザメは汽水域にも能動的に侵入してくる傾向があるそうで、河口港である渡久地港内でも、過去に大型のメジロザメ系の目撃情報があるようだ。
オオメジロザメといえば、実はジョーズのモデル・ホオジロザメよりもはるかに多くのヒト襲撃事件を起こしているサメだといい、実はホオジロよりオオメジロザメのほうがヤバイ…という話もあるくらい(濁っている内湾などでは特に)。
そんな大きなメジロザメ系の目撃情報がある渡久地港に、かつて台風避難の際にはミスクロワッサンを係留していた。
で、係留したあとは岸壁まで泳ぎ渡っていた時期もある。
渡久地港といえば、海底にヘドロが堆積した緑色の濁った水。
そんなところに顔をつけたくないから、顔は水面に出したままで泳いでいるその時に………
ブヨンッ!!!
と、何かが足に当たる。
そういやメジロザメも出るんだよなぁ、ここ………なんて思いながら濁って何も見えないところをコワゴワ泳いでいるときに、突然何かが足に当たったときの衝撃と恐怖をご想像いただきたい。
足に当たったのは他の船の係留用ロープというオチながら、なにかあるとすぐ飛び跳ねるトビウオの気持ちが、その時少しだけわかった。
というわけで、人喰いザメなんているわけないよねぇなんて思いながらも、ひょっとしたら…という思いをいつも抱きながら潜っている。
さて。
2010年の10月、カメラを携えて遊びで潜っていたときのこと。
リーフ際まで戻ってきて、何かいないかなぁとガレ場の海底を徘徊していると……
ワタシがいる場所よりもさらに浅い側、ほとんどリーフエッジ沿いのところに、巨大なシルエットが。
ひと目見て、
「……終わった。」
と思いましたね。
だって身の丈4m弱ほどのシルエットは、遠目にはヤバ系のサメ以外の何物にも見えなかったのだ。
これはもう食われるしかないっしょ。
タコだアカジンだ、数々の海の命を頂戴してきた因果が、ついにここで報われることになる………
そう覚悟しつつもずっと目で追っていたところ、さらに近づいてくるそのシルエットが、だんだん実像になってきた。
あれ?
これって…………サカタザメ系??
サメとはいいながらも、エイの仲間だ。
他のエイと同じように口は下側についていて、底ものを漁る暮らしをしているのだろうから、もちろんヒトなど襲うはずもない。
それを知った時のワタシの安堵といったら……
数秒間とはいえ一時は覚悟を決めたあと、それが人畜無害の魚だと知ってしまえば、かくなるうえは「記録」である。
が。
手にしているのは105mmマクロレンズオンリー。
とてもじゃないけど、3.5mほど(水中では5mくらいに見える)の魚をキチンと撮れるツールではない。
向こうから近づいてくるので、全身を画面内に入れるためにはこちらが後退しなければならないくらいだったんだけど、いっそのこと…と上半身(?)だけ撮ってみた。
こうして見ると、立派な背ビレさえなければ、上半身のフォルムはたしかにエイっぽい。
コバンザメが2匹ついているお腹側を覗いてみると…
矢印の先に口がある。
矢印といえば、トンガリサカタザメの矢印のような特徴的なフォルムは上下いずれかから見てこそなのに、さすがに心の余裕が無かったなぁ…。
というわけで、写真的にはどうしようもないものしか残せなかったものの、生涯忘れえぬ出会いのひとつという意味では、貴重な貴重な体験をさせてもらったのだった。