水納島の魚たち

ツバメウオ

全長 40cm

 ツバメウオという魚は、ダイビングを始めれば遅かれ早かれ必ず出会える魚だ。

 場所によっては大群を作り、訪れるダイバーたちの目を楽しませてくれる。

 人に慣れやすいために、かつては餌付けをしている場所がけっこうあって(今はどうかは知らない)、大集団の顔面が近づいてくることにむしろ恐怖を覚え、以来ツバメウオが嫌いになった、という人もいる。

 水納島ではツバメウオの大群を観ることはできないけれど、前世紀末から今世紀初頭にかけての数年間だけ、どういうわけか同じ場所に30匹くらいのツバメウオが居ついてくれたことがある。

 流れが無い時はこのように中層を優雅に泳ぎ、流れているときは根まで降りてきて、時には寝そべるような姿勢でジッとしていることもあった。

 当時は水納島の周辺で常時潜っているのは当店くらいのもので、このポイントもほぼいつでも貸切状態だったから、いつでもツバメウオ団体様の歓迎を受けることができていた。

 やがて本島からダイビングボートが頻繁にやってくるようになると、いつしかツバメウオたちも姿を消してしまった。

 もっとも、夕刻になると水面付近でダラダラと過ごすのが好きな彼らは、手慰み程度の釣りで簡単に釣り上げられてしまうので、

 「団扇みたいな魚が釣れたぁ〜キャー何これ〜〜〜?」

 というおねーちゃんの声を遠くに聞いたこともたびたびある。

 当時からリーフ際で釣りをする小船はよく来ていたから、いずれにしてもツバメウオたちは消えゆく運命だったのかもしれない。

 その後は、場所によっては20匹弱の群れが観られたりしたこともあったけれど、今ではたまに数匹姿を見せてくれる程度だ。

 この3匹はその後2年ほど姿を見せてはくれなかったのだけど、今年(2018年)になって、さらに成長した姿を見せてくれた。

 オトナになるとこのように団扇のような形になるツバメウオは、若い頃は縦に細長く、なかなかシャープなフォルムをしている。

 「ツバメウオ」の名は、これくらいの若魚の頃の姿に由来しているのではなかろうか。

 もっと小さな幼魚の頃は親とは似ても似つかぬ姿形をしていて、枯れ葉のように振る舞いながら浅いところで生活している……

 ……と学生時代以来長らく信じていたのに、それはナンヨウツバメウオという別の魚の幼魚なのです、なんて言われてしまった(もう四半世紀も前のことだけど…)。

 ええっ、じゃあ、いったいツバメウオの幼魚はどこにいるの?

 その後に刊行された多くの図鑑にはたいてい

 「幼魚は沖縄でもめったに見られない。沖合の表面に浮かぶ流木などについているのが時折見られる」

 といったようなことが書かれている。

 フムフム。

 ところでツバメウオの幼魚ってどんな姿なの?

 と思ってそのテの図鑑を見ると、たいてい体長10cmくらいになった子の写真ばかりなのだ。

 違うんだ、もっと幼い頃はどんな形なのか知りたいんだぁっ!!

 しかし図鑑ではまず見られないし、ネット上に出ている「幼魚」も、随分大きくなっている姿のように思える。

 そんなおり、某鳥羽水族館でタコ主任が関わっている同水族館会報誌上にて、ツバメウオの繁殖記録という記事があった。

 水槽設備で繁殖したからには、仔魚期の姿も詳らかになっているに違いない。

 期待を胸にページを開くと、卵から若魚になるまでの経過が写真で綴られている。

 よし、肝心の幼魚は……??

 ……な、なんと一番知りたいサイズの頃の写真が掲載されていない!

 卵の次の段階が、早くも8cmくらいに育っている写真なのだ。

 まさか孵化した直後から8cmなはずはなし、う〜む…ツバメウオの幼魚はXファイルなみだ。