全長 40cm(写真は3cmほどの幼魚)
ひざ下くらいの水深しかない波打ち際や桟橋の付け根などで、クネリクネリと身をよじっている小さな枯れ葉。
あれはなんだ?
スルドク気付く人は生き物好きに違いない。
そのような浅いところで見られる枯れ葉のような魚は、ほとんどがナンヨウツバメウオの幼魚だ。
上の写真くらいのサイズになって、なおかつ横から見るとそれなりに魚に見えはするけれど、これを水面上から観ても、魚であるとはなかなか気づけない。
さらに小さな個体になるとなおさらで、我々でさえ、ゴミか?ナンヨウツバメウオか?と目を皿のようにしていたりする。
桟橋脇に寄りつく幼魚のなかで、現在のところこれがミニマムサイズ。
なにもそこまで、といいたくなるくらい見事に枯れ葉化している。
年によっては桟橋脇で観られる個体数が多いこともあり、トリオになって水面付近を泳いでいることもある。
3匹の体色の濃淡が違っているのは、これくらいのサイズになると枯葉のフリだけでは通用しなくなるからか、状況によって体色の濃淡を巧みに変えられるようになるから。
水面にいる時はやや明るめの色でユラユラしているのに、
「あ、ヤバい!」
と思ったら黒ずんで水面から底の方に移動していくこともある。
水納島の桟橋の周辺では、毎年シーズン中に何匹かのナンヨウツバメウオの幼魚が見られ、夏の間台風が来ない日々が続けば、随分長い間同じ場所で同じ個体を見ることができる。
こうなると、ツバメウオっぽい雰囲気が出てくる。
とはいえ桟橋脇でここまで成長した姿を見せてくれるのは稀だ。
現在のように連絡船や各種ボート、ジェットスキーなどがひきも切らず往来する環境では、おちおちゆっくりしてもいられないのだろう、夏の間に、彼らの姿はいつの間にか消えていく。
※途中追記(2024年2月)
ところがこの冬(2023年〜2024年)にはどういうわけかナンヨウツバメウオの若魚がビーチエリア、それも波打ち際にほど近いところに2匹で居続けてくれたおかげで、まるで童謡を歌う有名な姉妹のような穏やかなたたずまいを冬の間は拝見することができた。
浜から沖に何本も伸びているジェットスキー係留用のロープが、彼女たち若姉妹にとってちょうどいい拠り所となっていたようだ。
桟橋脇をあとにした彼らは、外洋という、より大きな世界で暮らし始める。
ナンヨウツバメウオの成魚は、アカククリほどではないけれど口先がツンと出ていて、体も光沢が強い感じがするので、ツバメウオとの区別は容易だ。
過去に一度だけ、オトナがリーフ際の浅いところに居たことがあったのは極めて稀な例外で、彼らがもっぱら暮らしの場にしているのは潮通しのよい外洋らしく、ファンダイビング中に成魚を見る機会は滅多にない。
それでも過去に一度だけ、ゲストを案内中に100匹以上もの密集隊形になったナンヨウツバメウオのオトナの群れを観たことがある。
群れの隊形は縦に長いため、大聖堂の壁一面に輝く長大なレリーフを観ているかのようだった。
それもやはり随分水深がある岩場のポイントの沖でのことで、以後そんな群れに出会ったことはない。
幼魚時代は外洋で過ごし、オトナになると沿岸によりつくツバメウオとは、まったく真逆のパターンで成長するナンヨウツバメウオ。
うまいこと住み分けているのだろうか??
※追記(2021年8月)
…と思いきや、少なくとも若魚の頃はツバメウオと一緒にいることもあるらしい。
その様子を2016年11月に撮っていたことを、すっかり忘れていた。
ツバメウオが3匹いるように見えるこの写真、よく見ると後ろの1匹だけ風体が異なっている。
成長過程による違いかと思いきや、さにあらず。同サイズのツバメウオの若魚はといえば…
一方、こちらは…
背ビレ尻ビレのたたずまいが異なっているほか、ツバメウオではオトナになると目立ってくる腹ビレ付け根チョイ後ろにある黒斑の素(?)が、こちらの若魚には観られない。
体のテカテカ具合いはオトナのナンヨウツバメウオっぽいから、おそらくこの若魚はナンヨウツバメウオなのだろう。
その年のシーズン終了間際にリーフ際に現れたところをみると、ひと夏をビーチその他のリーフ内で過ごし、立派な若魚となってリーフの外に出てきた、ということだろうか。