全長 35cm(写真は2cmほどの幼魚)
カンムリベラと同じく、幼魚の頃の体色がオトナからは想像もつかないほど異なっていることで有名なツユベラ。
↑このハデハデ幼魚が、オトナになると↓こうなる。
これは30cmくらいのオトナのオスで、カンムリベラのオトナに比べればよほど派手ではあるけれど、チビターレの頃のようなシンプルな鮮やかさではなく、ひと口で形容しづらいゴチャゴチャハデハデぶりはまさに「ベラ」。
畢竟、ダイバーの興味はオトナをスルーし、愛らしいチビターレへと向けられる。
ツユベラ・チビターレは水納島でのボートダイビングでもごくフツーに浅いところでチラホラ観られるので、ツユベラのチビターレを観たことがないというヒトを探すほうが難しい。
リーフ際から砂底までの間に広がる死サンゴ礫転石ゾーンでよく見られるから、そういった環境が多い水納島で何度も潜っている方にとっては、さすがのプリティチビターレでもむしろ見飽きた存在かもしれない。
でもひと口に幼魚といっても成長段階でビミョーにその体色は異なり、夏場なら各成長段階の幼魚を1本のダイビングでいろいろ観られる、という面白さがある(以下の成長段階の一連の写真は同一個体ではありません)。
2cmに満たないチビターレは……
本来派手なオレンジ色の部分にまで儚げな透明感がある。
2cm超になると…
コントラストがクッキリハッキリしてきて、毒々しいほど派手になる。
有毒の生き物は有毒であることを示すためにわざと派手な色になり、外敵がいらぬちょっかいを出さないようにしているそうで、そのようなド派手カラーのことを「警告色」という。
すると今度は無毒の弱小生物が時に有毒生物の真似をする、すなわち派手な色になることによって毒があるフリをし、外敵から身を守ることもある。
それを考えると、本来無毒のツユベラ・チビターレがわざわざ派手な色になっているのは、あえて毒々しさをアピールしているからなのだろうか。
とはいえ、モデルとなっているこのような色味の有毒生物って、まったく見当がつかない……。
警告の意味が無いのなら、なにゆえここまで目立つ色にしているんだろう?
死サンゴの岩がたくさん転がるリーフ際の浅い海底などでは、海底付近でチラリホラリと派手な体を見え隠れさせているチビターレ。
4cmくらいまではこの色味のまま、白斑の割合が小さくなっていくくらいの変化なんだけど、5cmを超えるとやがて尾ビレに一番近い白斑周辺を手始めに、小さな青点が出てくる。
この青点が、オトナの階段を昇り始めた印だ。
そしてこの青い点がハッキリ現れるようになるとともに、ツユベラ・チビターレの代名詞といっていい白斑は、まるでアクシズを包み込むニュータイプの共鳴現象に吸収されていくシャア総帥の命の灯のように、静かに着実に消えていく。
さらに青点が体全体へと広がり始め…
いつしか体色もオレンジベースではなくなる。
そして白斑の名残りすら消えると……
サイズには個体差があるけれど、このカラーリングになっていれば、もうメスになっているはず。
これで10cmちょいくらいで、20cmくらいまでは基本的にこのような色味のまま。
20cm超の大きなメスでは、体の中ほどに白い帯が現れてくる。
多くのベラ類同様雌性先熟なので、このようなメスの中の実力者がオスになる。
メスが体中に青点が散らばっているのに対し、オスの青点は見た目尾ビレの付け根付近に集中していて、幼魚からメスくらいまでのツユベラに抱いていたイメージは欠片もなくなる。
また、メスの尾ビレが黄色一色なのに対し、オスの尾ビレには赤い縁取りがある。
この赤い縁取りがまたクセモノで、昨年(2019年)11月に撮った「オス」らしきツユベラの尾ビレは……
縁取りというほどの赤色が無い。
ベラ類変態社会人御用達の図鑑「ベラ&ブダイ」のツユベラの項を見てみると、オスの尾ビレの特徴もメス同様「先端が黄色い」と紹介されているし、掲載されているオス相の写真の尾ビレはキレンジャーだ。
この赤い縁取りっていったい??
そして体の真ん中あたりにある白い帯は、興奮モードになるとそれを知らせる印のごとくクッキリと太くなる。
やる気になっているオスは、この色味をさらに婚姻色モードにし、ベラらしく胸ビレを使って中層をブイブイ泳ぎ、メスを産卵へと誘う。
気が乗ってきたメスがオスのもとへやって来ると、ペアは一緒に上昇して……
プシュッと産卵する。
この時もやはり、メスの尾ビレは黄色く、オスの尾ビレには赤い縁取りがある。
この赤い縁取りは、地域差なんだろうか、それとも興奮時限定の色なのだろうか…。
気になって夜も寝られなくなりそうだったので、ツユベラを画像検索して、ここまでクッキリハッキリ尾ビレに赤い縁がある写真を探してみたところ、似たような感じの写真を発見。
さっそくそのウェブサイトを見てみると、それは多種多様な分野の様々なスペシャリストが著述するコラムを掲載しているManabi JAPANというサイトで(
運営はシダックス(株))、その様々な分野の「自然」のコーナーのひとつ「海の中の素敵な仲間たち」という枠で紹介されているツユベラの写真だった。
そのコーナーを担当しておられるのは、誰あろう天下の大御所水中写真家大方洋二さん。
その記事中で大御所は、赤い縁取りのツユベラについて
尾ビレの縁がオレンジ色になるのは珍しい
と解説しておられるではないか!!
どこの馬の骨とも知れぬダイビングサービスのオヤジ(ワタシのことね)が「珍しい!」と叫んだところで誰も見向きもしてくれないけれど、天下の大御所がおっしゃるのだから、これはもう三つ葉葵の家紋が入った印籠を手にしたも同然だ。
やっぱ珍しかったんだ、赤い縁取り!!
そういえばこのツユベラのオトナ、普段ちょくちょく会うオトナのツユベラに比べてやけにでっかかったから注目したのだった。
赤い縁取りは老成の印か??
老成の印かどうかはともかく、デカいから口を開けるとなかなかの迫力。
カンムリベラ同様、鋭そうな歯が前に突き出る。
ツユベラたちは、この丈夫な歯と強そうな顎を使って海底の獲物を漁る。
その際はオビテンスモドキのように、パワフルに死サンゴ礫を引っくり返しまくる。
ツユベラと同じような小動物が好物の他の魚たちが、おこぼれに与かろうとゾロゾロついてまわる様子が面白い。
↑こんなパワフルな魚と……
↑このチビターレが同じ種類のオトナとコドモだなんてなぁ……。
わかっちゃいても、やっぱりアンビリーバボー。