全長 50cm超(写真の個体は不明)
2020年シーズンはコロナ禍のせいで(ある意味おかげで)本島から水納島に潜りに来るボートが奇跡のように少なかったから、普段のシーズンなら引きも切らずダイビングボートが泊まっているために潜りに行けないポイントにも、ちょくちょく訪れることができた。
ゲストはひと組だったので、午後の案内はオタマサに任せ、カメラを携えながら特に目的もなく茫漠たる砂底を徘徊していたところ、砂底からアヤシゲなものが5cmほど突き出ているのが見えた。
一見何も無いように見える砂底にも、トサカ類やウミエラ類などの刺胞動物がさりげなく生えていて、そこに変態社会御用達クリーチャーたちが住み着いていたりすることもあるので、アヤシゲなものが何なのか、近づいてチェックしてみることにした。
その表面は、なんだかケバケバしている。
ん?
よく見るとその先っちょから顔が??(冒頭の写真)
誰だこれ??
上から覗いてみよう。
拡大。
口元といい目といい、ギンポっぽい。
でも特大成熟ニジギンポくらいの大きさで、なおかつこのような顔をしたギンポなんて、見たことないんですけど。
もう少し、せめて半身くらい穴から出してくれたら…と思っているうちに、彼は穴の中に引っ込んでしまった。
上から覗かれたのがイヤだったのだろう。
引っ込んだ穴を覗いてみると……
わぉ、ブラックホール。
いったいぜんたいこのギンポらしき魚は誰?
というかそれ以前に、彼が住処にしているらしきこの円筒形のケバケバはいったい何?
砂中に埋もれているようだったので、隠れた謎の魚には申し訳ないけれど、周辺の砂を除けてみた(※良い子はマネしてはいけません)。
露わになっている部分は長さ10cmちょいほど、そしてまだまだ先は砂中深くまで続いているようだ。
砂中に潜むクリーチャーの棲管のあと?
ただのゴミ?
それとも……さきほどの謎の魚自体がこしらえた専用巣穴??
住処も魚もすべてナゾ。
ひょっとしたら一生に一度級の大発見かもしれないというのに、なんてことだ、滞在可能リミットが。
しかもその後も引き続きテキトーに砂底を徘徊したものだから、再訪しろと言われてもどこだかさっぱり……。
…というコトの顛末を拙日記コーナーにて紹介したところ、久しぶりに某有名海洋写真家からご教示をいただいた。
いわく、
なぞのギンポはウナギギンポなのではないでしょうか?
と言っても、僕は見たことないですけど…。
ネットで検索してみると、沖縄でも観察されているみたいです。
座間味にもいないかなぁ。
とのこと。
さっそくネット上で画像検索してみると、驚くべきことにその体はその名のとおりウナギのようにひょろ長く、50cm超になるというではないか。
ウナギイヌは子供の頃から知っていたけど、ウナギギンポなんてものもいたんだなぁ…。
体つきだけ見るととても同じ種類とは思えないけれど、海中で撮影された様々な写真の顔をよく見てみれば、おお、ワタシが撮った魚の顔とまったく同じ。
というわけで、このナゾの魚はウナギギンポで間違いないだろう(ヒメウナギギンポという種類もいるらしいけれど、顔だけでは区別不能)。
顔のデカさからしてニジギンポの特大サイズくらいはあるだろうと思っていたら、まさかあの巣穴の下に50cm級の体が潜んでいたとは……。
つまりあの巣穴もまた、50cm級ということか。
ところで、ご教示いただいた某有名海洋写真家氏からは、「続報を期待します」なんて言葉も頂戴していた。
前述のとおり再会しようにも場所がどこだかわからないんだけど、そう言われると少しはチャレンジしてみようという気にもなる。
そこで、ポイント再訪のチャンスがあった翌月初めにウナギギンポとの再会を目指してみた。
が。
目印になるかもしれない各種刺胞動物の出方が前回とはまったく違っていたこともあり、このあたり…と信じた場所にはウナギギンポどころか例のケバケバチューブの巣すら見つからなかったのだった。
人生初遭遇のウナギギンポ、顔だけにて終了。
ところでこの稿を記すにあたり、もう一度沖縄県内ウナギギンポ情報をザッと調べてみたところ、ウミウシの大家小野にぃにぃ氏がご本人のブログにて、ウナギギンポとの初遭遇の記事を2013年にアップされている。
かれこれ200年近くガイドされているんじゃなかろうかというくらいのベテラン中のベテランの方でも、初遭遇は2013年のことだったのだ。
やはり歴200年だからこその全身披露、歴たかだか四半世紀のワタシには、顔だけでガマンしなさいということか……。
ちなみに、ダイビングサービス小野にぃにぃといえば、座間味在。
某有名海洋写真家氏、ウナギギンポは座間味にもいるみたいですよ(笑)。