全長 10cm
このヤスジニセモチノウオを水納島で初めて確認したのは、1999年のことだった。
95年に島に引っ越してきてから3〜4シーズン経っても一度も見たことがなかったのに、その年はリーフのあちこちでその姿を目にした。
ヤスジニセモチノウオ発見以前と以後における環境的に大きな違いといえば、98年の大規模なサンゴの白化によるリーフのサンゴ壊滅である。
その後は砂地のポイントのリーフ際でもフツーに観られた年が続いていたのだけれど、いつしかそういった場所では姿を観る機会は減った。
一方、岩場のポイントでは、今もなおフツーに出会うことができる。
砂地のポイントでは、白化による壊滅から十数年経ってようやくミドリイシ類をはじめとするリーフのサンゴが復活するとともに姿を消したのに対し、沖に向かって長く伸びる根に群生するサンゴにおけるミドリイシ類の割合が極端に少ない岩場のポイントでは、なぜだか数多いヤスジニセモチノウオ。
それやこれやを考え合わせると、ヤスジニセモチノウオはミドリイシ群生環境が嫌いなのかも。
ニセモチノウオの仲間のなかではわりと大きくなる種類で、その分行動範囲も広い。
サイズがサイズなので、オトナのオスともなるとサンゴの枝間を縫うように泳ぐことはせず、サンゴの陰や岩の隙間、穴などをスルスルとすり抜けつつ移動している。
デカいから、オトナのホンソメワケベラのクリーニング対象にもなりえる。
10cmほどの大きな個体はオスで、その縄張り内に何匹かのメスがいるようだ。
メスもしくは若い個体は、鼻筋の白いラインがよく目立っている。
ひっそりと暮らしているように見えながらも、小さなニセモチノウオでさえ猛々しい食いっぷりなくらいだから、それより大きなヤスジニセモチノウオもさぞかしプレデターなのだろう。
あいにく何かを捕えて食べているシーンは目にしたことがないものの、何かが海藻に産みつけたらしい卵らしきものに食いついていたことがあった。
卵の主はなすすべがないのか、各種スズメダイやベラ類が集団になって貪り食っているところにやってきたヤスジニセモチノウオ、気が強そうなスズメダイ軍団に怯む気配など微塵もなく、実に堂々と中央でパクついていた。