全長 40cm(写真は3cmほどの幼魚)
体の模様に基づいて名付けられた魚には、和名にタテだヨコだといった方向がついているものが多い。
魚の場合の縦と横は、釣った時の向きだとか標本のビンに入っているときの向きだとかいう理由で、一般的理性とは逆の向きになる、ということさえ踏まえておけば、単純である分、誰にもわかりやすく覚えやすいというメリットがあるともいえる。
ところが。
そのままズバリの名前になると、いらざる誤解を受けてしまうこともある。
このヨコシマクロダイもその一つだ。
邪黒鯛だなんて、時代劇なら絶対に悪役確定ではないか。
本当は横縞なのだ、とすぐにわかればいいけれど、一度抱いたイメージはそう簡単に拭い去れるものではない。
こんな白黒の可憐な魚にもかかわらず、このヨコシマクロダイが必要以上にマイナーなのは、悪代官に取り入る悪徳商人のような名前の影響かもしれない。
ただ。
白黒で可憐なのはあくまでも子供の頃だけのことで、オトナになると……
あら……誤ったイメージにピッタリかも。
リーフエッジ付近など浅いところの上層で、くすんだ鈍い色の大きな魚が浮かんでいるのを目の端でご覧になったことがある方も多いことだろう。
リーフが沖まで長く伸びる岩場のポイントでは、時にはタマン(ハマフエフキ)と一緒になって巨群を作っていることもあるヨコシマクロダイは、釣果や水産資源として重宝される魚だ。
オキナワではダルマとかダルマーなどと呼ばれ、その美味なることでも広く知られている高級魚なのである。
ところが相手がダイバーとなると、群れていようと何をしていようと、スルー率激高魚であることはまず間違いない。
でも、名前のイメージにとらわれることなく、そしてオトナの地味な姿に惑わされることなく、素直な心で幼魚を見てみると、ただただ可憐で可愛い魚であることがわかる。
冒頭の写真よりもさらに幼い頃(3cm弱)は……
なにやら珍しげな魚ではあるまいか…と一瞬色めき立つほどにフクザツな色合いをしている。
このヨコシマクロダイをはじめ、フエフキダイやイトヨリダイの仲間たちは、スーッと泳いでピタッ、スーッと泳いでピタッ、という動きを繰り返すものが多いから、見ているとなんだかおもちゃのようで楽しい。
↑これは砂中に潜むエサをサーチしているところで、目当てのモノを見つけるとズボッと砂に突っ込んでエサをゲットし…
…余計な砂粒をエラや口からワラワラと排出する。
静かに見ているかぎり、遥か彼方まで逃げ去ってしまうことはないし、動き自体も速くないからゆっくり見ていられるチビターレ、よく観るとけっこうカワイイ。
この幼魚が成長して10cmくらいになると、おでこあたりのフォルムにちょっぴりオトナの雰囲気を醸し出すようになる。
それでもまだ、白黒がハッキリしていてメリハリがあるその体色。
しかしここからさらに成長して25cmくらいになると……
ダイバーにおける「スルー率」は格段にアップしてしまうことになる。
さらに成長すると、かつては白黒の可愛い色柄だったなどとは夢にも思えない姿になる。
これでもまだ帯模様の名残りが残っているから幼少時をイメージできるけれど、↓こうなると…
群れているならまだしも、単独でいるとたとえホンソメワケベラにクリーニングしてもらっていたとしても、誰も見向きもしなくなるのだった。
個体数が多い割には、可憐な幼魚の認知度はかなり低いヨコシマクロダイ。
図鑑でオトナの姿を見て興味を失ってしまう前に、まずは可憐な幼魚と出会うことをおススメいたします。