全長 7cm
各地でその姿がチラホラ確認されるようになって以来、レア度では「やや稀種」と図鑑に書かれてある程度ながら、このヨコシマニセモチノウオがダイバーに知られるようになったのは90年代のことだった。
一方観賞魚界では随分古くからその存在が知られており、海水魚屋さんに入荷しようものならかなりの珍品としてマニアを喜ばせていたようである。
観賞魚界で珍品というと、採集地が人里から遠い場合と、生息水深が深い場合がある。
このヨコシマニセモチノウオは後者にあたる。
マリアナ諸島あたりでは、個体数的には普通に見られるものの、生息水深は40mくらいであるという。
ただでさえその水深での採集は困難なうえに、他のニセモチノウオの仲間たち以上にすぐに岩陰に隠れてしまうため、人目にさらされるのはごくわずかな数でしかない。
ところが前述のとおり90年代あたりから日本国内でも次々にその姿が確認され始め、小笠原や沖縄で見つかった、という話が相次いだ。
いずれも海外同様水深が深い。
それにドロップオフ的地形で確認されているようである。
となると、まず水納島では見られないだろうなぁ、と思っていた。
しかしなんと!!
水納島に越してきたばかりの95年6月、ポイント開発を兼ねて適当に潜った場所で、いきなり見つけてしまった。
水深25mほどの砂地の根である。
まさか砂地の根で出会えるとは思ってもいなかったので、さすがにこの時ばかりは我が目を疑った。
お向かいの伊江島ではチラホラ見られるから、ホントはそちら方面に住みたかったところ、運悪く流れ着いてきたのだろうか。
この子は白い線がはっきり出ているから、まだまだ子供と思われる。
水納島の砂地の根で出会ったのは、あとにも先にもこの1回限り。
砂地の根に限らずとも、その後長らくヨコシマニセモチノウオとの再会を果たす機会は無かった。
その後2012年に一度中ノ瀬で出会っているようなのだが、写真には残っていたけれどまったく記憶に残ってはいないまま迎えた今年(2018年)、中ノ瀬でゲストをご案内中に、久しぶりの再会を果たすことができた。
後日カメラを携えて潜りに行く機会を得たので、さっそくパシャ。
それが冒頭の写真の子だ。
白線が消えているからきっとオトナなのだろう。
例によって人前に姿を晒すのはイヤなようで、なかなかその姿をゆっくり拝ませてはくれないのだけど、束の間のチャンスが。
可憐なその色合いからはなかなかイメージできない大口。
口中の歯並びも随分猛々しい。
きっとこういった深場に蠢く甲殻類などを、ガシガシムシャムシャ食べているのだろう。
※追記(2023年1月)
一昨年(2021年)のことながら、再び砂地の根でヨコシマニセモチノウオに出会った。
砂地の根に限っていえば、世紀をまたいで四半世紀ぶりの2個体目である。
それもこれも、根の暗がりのそばにいるマルスズメダイ・チビターレを撮っていたからこそ。
背後にいるピンクの魚が邪魔だなぁ…と思っていたら、まさかのヨコシマニセモチノウオ。
即座に主客転倒、奥に引っ込んでしまう前に…と慌てて撮ったのはいうまでもない。
幸いヨコシマニセモチノウオは暗がり内を左右に動きこそすれ奥に引っ込んでしまうことはなく、けっこうじっくりその姿を拝ませてくれた。
前から見るとあんまり可愛くないんだけど…
横から見ると…
…美しい。
もう生きているうちには2度と会えないかもしれないから、この際とばかりに撮らせてもらったのだけど、9月のファーストコンタクト後も居続けてくれて、少なくともその年の12月までは確認できたヨコシマニセモチノウオ。
おかげで一生分観ることができたのだった。