イカの墨汁(すみじる)

 今や空前の沖縄ブームだから、そこで食されている庶民の味についても多くの方がご存知だろう。
 このイカの墨汁も、ところ変わればイカ墨パスタなるものがあるほどだから、誰もが知っている沖縄のメニューに違いない。

 が、旅行者がこの墨汁を食べようと思うと、ヘビーな宿に泊まるか、そういうメニューを定番にしている食堂に行かなければ出会えないのかもしれない。

 今でもそうなのだから、僕たちが沖縄にいた学生の頃には普通に入る飯屋にこんなメニューがあるはずはなく、かといって宿に泊まるはずもない。だから学生の間は結局一度として口にしたことがなかった。

 初めて食べたのは、卒業後に客として来た水納島で、だった。
 ダイビングは、当時バイトという名の居候だった現有名海洋写真家を頼り、宿は今は実質開店休業している民宿屋富祖に泊まっていたときのこと。
 夕食にこの墨汁が出てきた。

 初めて目にする黒い汁。黒曜石のような輝きがやたらと不気味だった。
 しかしその見かけとは裏腹に、なんとも旨みとコクのある美味しい美味しい汁。思わずおかわりをしてしまった。

 翌朝。
 ダイビングを前に朝の準備をしているところへ、一緒に泊まっていたタコ主任(当時はまだかろうじてタコではなかった気がする…)が、なにやら悲壮感溢れる顔にすがるようなまなざしをたたえ、僕のところにやってきた。

 「あ、ウンコ黒かったやろう??」

 そういうと、彼の顔はまるで志村けんと桜田淳子の夫婦コントの、「淳子、シアワセ♪」のようなバラ色に包まれたのだった。

 とてつもない病気になってしまったのではないかと、朝から1人孤独に悩んでいたタコ主任なのだった。

 いまだその人体の不思議を味わったことがないあなた、是非一度墨汁をお試しあれ!!

 翌朝の姿

面白いですよぉ!!

 


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