タカセガイの刺身

 タカセガイという名を貝の図鑑で探しても見つからない。タカセガイというのは地方名で、図鑑に載っている和名はサラサバテイというのだ。
 でも、渡久地港と水納島を結ぶ連絡船を、誰もがその正式名称である「ニューウィング・みんな」と呼ばず水納丸と呼んでいるように、タカセガイをわざわざサラサバテイなんて呼ぶ人もまずいない。

 タカセガイは、その名を聞いてどんな貝だか見当がつかない人でも、ダイバーなら一度や二度は必ず目にしているはず、というくらいに普通にいる貝である。
 横から見ると正三角形に見える円錐型の大きな貝で、リーフ際の浅いところで潜っていればそこかしこで見ることができる。やんちゃなオジサマダイバーのなかには、わざとBC(ダイビングをする際に着ているチョッキのような浮力調節器)のポケットに入れてしまおうとする人もいる。

 もともとは白と赤の縞々模様が美しい貝なのだが、タカラガイ類のように外套膜で殻を覆っているわけではないため、石の上にも3年じっとしているとコケに覆われる。
 しかしその苔むした貝をひとたびひっくり返すや、そこには見るからに美味しそうな身が、はちきれんばかりのボリュームで詰まっていることに気づく。

 一度茹でてから食べるこの刺身がまた、本当に美味しい。
 そしてひとしきり美味さを堪能して冷静になると、皿に並べられた刺身の味には2種類あることに気づく。
 コリコリさっぱり系の爽やかタイプと、しっとりモッチリ系の肉感タイプがあるのだ。

 これは好みにもよるけれど、僕はしっとりモッチリ系肉感タイプが気に入っている。噛むと反発するのではなく、かといって無抵抗に受け入れるだけでもなく、歯にしっとりとまとわりつくようなその感触………。
 そこに醤油とわさびの黄金タッグが遠慮深げにほんのり加われば、口の中は涎の失禁状態である。

 このさっぱり系とモッチリ系、実は両者はそもそも貝の種類が違う。
 さっぱり系は本来のタカセガイで、上記の説明どおりの貝なのだが、モッチリ系は、実は本名をギンタカハマといい、ヒロセガイという地方名を持つ貝なのだ。
 住んでいるところもタカセガイよりは浅く、リーフの上でサザエを獲っているときによく見かける貝である。形はタカセガイよりも裾のあたりがふっくらしていて、貝殻の模様も赤白の縞々ではない。

 慣れれば両者の区別は一目でつくようになる。
 ところが、タカセガイという名はちょくちょく耳にするけれど、誰かがヒロセガイと言っているのは、少なくとも水納島では聞いたことがない。いっしょくたに「タカセガイ」と言っているような気がする。まぁ、地方名とはそんなものだ。

 つまり、タカセガイの刺身といえば二通りある、という事態になるわけだ。

 で、正確に言うなら、僕はサラサバテイよりもギンタカハマのほうが好き、ということになるのであった(上の写真では、右側がギンタカハマの刺身)。

 さわやか系とモッチリ系

タカセガイ(左)とヒロセガイ(右)。
写真を撮るために貝塚(?)からほじくりかえしてきたため、
貝殻自体が美しくありません……。

 


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