●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2013年9月号
今年もすでに数個の台風がやってきた。
幸い、いずれも強風域がかする程度で、停電も被害もなく、お疲れ休みになる程度のかわいい台風だ。
そんなおだやかな台風のとき、たまの休みだからと油断していると、共同作業の声がかかる。
たいていは道の掃除であることが多いけれど、数年に一度は下水・排水溝の掃除をすることもある。
水納島は島内主要道路が石畳の道になっていて、その脇には下水・排水溝が整備されている。
排水溝には等間隔に砂止めがあって、その上は金網の蓋になっている。そのため砂止めに砂や落ち葉が溜まりすぎるとやがてそこからヘドロ臭が漂うようになり、下水に含まれているご馳走を求めるゴキブリたちの格好の住処になってしまう。
星空を眺めながらの散歩道に、ゴキブリがウヨウヨ、異臭がプ~ン……では観光地としては失格だ。
そのため数年ごとに、たまのおだやかな台風休みの際に、突如排水溝の掃除をしようということになるわけだ。
なにもわざわざシーズン中の忙しい時期の束の間の休みにやらずとも、誰もが暇な冬場に毎年定期的にやればいいのに……といつも思いはするものの、そういった計画的なことを沖縄の地域社会に望んではいけない。
こういうことは一事が万事思い立ったが吉日、そして暇な時期にはけっして思い立たないものなのである。
排水溝の清掃作業自体は単純なもので、小さな島のこと、島民がこぞってやればせいぜい数時間で終わる。
ただし重たい金網を引き上げて砂止めから大量の汚泥を掬い上げ、一輪車に乗せて捨てに行く作業を繰り返すとけっこう腰にくる。それに季節が季節なので、とにかく暑い。
それでも島の人たちは、全員当たり前のように毎回参加している。
普段の仕事よりもずっと大変で、休養のはずが疲労の蓄積に変わってしまうというのにすごいなあと思う。
都会では「行政サービス」という名の便利なシステムがいたるところにあるから、町道沿いの排水溝の掃除なんてものはきっとやらなくてすむのだろう。
かくいう私も水納島に引っ越してくるまでは未経験だった。
できるなら水納島でも、同じ税金を払っている以上は「行政サービス」の恩恵に与りたいところではある。
けれど自分たちで掃除をするからこそ、なるべく排水溝に落ち葉や砂が溜まらないようにしようという意識も生まれてくる。
情けはヒトのためならず、清掃作業もまたヒトのためならず。
めぐりめぐって自分にかえって来るということを理解するにもいい経験だ。
2年前にやった排水溝掃除のときは、水納小中学校の先生や生徒も加わって、実に賑やかだった。
人数が揃うと作業にかかる時間は短くて済み、ほのぼのとした作業になったものだった。
小さな島には不釣合いに立派な小中学校を目にされる観光客の中には、税金の無駄使いの粋であるかのような感想を抱く方もいらっしゃる。
でも、そんな観光客が心地よく島内を散策できる裏側には、小中学校の先生方も加えた島の人々の地道な作業があるのだ。
そこに住まうヒトがいてこそ成り立っている観光地なのである。
大変だけど必要な作業、それが排水溝掃除。
そろそろ今年あたり、台風の強風域に入ると「排水溝の掃除を午後3時からやろう」なんて声がかかるんじゃないかなぁ……。