●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2013年11月号
観光客にはあまり知られていないけれど、落花生、すなわちピーナツもまた沖縄名産のひとつである。
沖縄でピーナツの名産地として有名な地域のひとつが、水納島のお向かいにある伊江島だ。
そして伊江島ほど大々的ではないものの、水納島でもピーナツは普通に作られている。
ピーナツは砂地っぽい土壌であれば比較的作りやすい作物だから、水納島のような土壌はピッタリのようだ。
島のおばあによると、春の彼岸の頃に種をまき、秋の彼岸の頃に収穫するという。
ピーナツといえば柿ピーの中に含まれているもの、もしくは「落花生」として売られている炒られた殻つきのものしか知らなかった私にとって、採れたての生ピーナツを米と一緒に炊いたピーナツご飯は、目からウロコならぬピーナツの殻が取れるほどの感動的美味しさだった。
今や私の中では、水納島の秋を代表する味覚だ。
そんなおいしいピーナツを楽しみにしているのは、我々人間ばかりではない。
ハトやカラスが畑の上空から虎視眈々と収穫後のおこぼれを狙っているかと思えば、夜陰にまぎれてピーナツ畑に侵入する生き物もいる。
そう、ヤシガニだ。
ヤシガニはカニという名がついているけれどヤドカリの仲間で、大きくなると2kgくらいになり、珍味的高級食材になる。
数年前に那覇の公設市場で見たときは、1匹ずつプラケースに入れられた大きな活ヤシガニ(?)が1万円ほどで売られていた。
ただしヤシガニは自然海岸がもっぱらの住処なので、自然じゃない海岸だらけになってしまった本島ではほとんど見かけなくなっていると聞く。
一方県内各離島では、なまじ高級なだけに乱獲されてしまい、その数を減らしてしまっているそうだ。
水納島にはそんなヤシガニがまだ自然に生息していて、毎年秋になると島民の間でちょっとした「ヤシガニを捕ろう!」ブームが起こる。
そしてその効率的な捕獲場所が、ほかでもないピーナツ畑なのだ。
水納島のヤシガニはピーナツが好物のようで、秋の収穫期の夜にピーナツ畑へ行けば、かなりの高確率でヤシガニをゲットできるのである。
島にはヤシガニハンターの異名を持つヒトが数名いて、興がのると夜な夜な畑に繰り出しては、1匹、2匹とゲットしてくる。
以前機会があった際に私も興味津々で食べさせてもらったところ、驚くべきことにカニ味噌から身までがピーナツ風味なのだった。
ピーナツ畑にとっては立派な害獣(?)といっていいくらい、彼らはたくさんピーナツを食べているようだ。
聞くところによると、ヤシガニの寿命は少なくとも20年以上で、繁殖力はわりと強いという。
水納島のように生息環境が維持されていて、なおかつ捕獲される機会が少なければ、本来は普通に観られる生き物なのだ。
生き物としても観光客の興味の対象になるヤシガニは、その食材としての物珍しさと合わせて立派な観光資源になりうる。
でもそれをひとたび観光産業に巻き込んでしまうと、瞬く間に絶滅してしまうことだろう。
年に数匹の捕獲程度で済ませながら、晩秋のひそかな楽しみのままにしておく。
そのほうが、ヤシガニにとってもそこで暮らす我々にとってもシアワセなことなのである。