●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2004年11月号
先月のある夕刻、島のとある場所から突如尋常じゃない煙がもくもくと立ち昇った。
島には昔からゴミ捨て場があり、その周りは草木が鬱蒼と茂っている。
この日誰かがそこでゴミを燃やそうと火をつけたまではよかったのだが、おりからの強風にもかかわらず完全に鎮火する前にその場を離れてしまったため、飛び火を防げなかったらしい。
乾いた北風を浴びて乾燥しまくっていた草木たちは、まるで踊り狂うように火を招き寄せ、みるみる火勢は強まっていった。
たまたまウォーキングをしていた人が発見し、急いで島じゅうに知らせたものの、みんなが集まり始めたときにはすでにバケツで水をかける程度では焼け石に水状態になっていた。
そして紅蓮の炎がグングン突き進む先には、どうぞ燃やしてくだしゃんせといわんばかりにたたずむ我が丸太小屋が……。
さあそれからが大変だった。
119番してもどうなるはずもなく、とりあえず島にいる人間でできるだけのことをしなければならない。
差し迫った危機にある我が家を救うために、ある人は大きなタンクに水をためてかけに行き、またある人はユンボと草刈機で延焼を防ぐために草をなぎ倒していく。
そしてなんといっても大活躍だったのが、島の倉庫に置いてあったエンジン付きの本格的消火ポンプだった。
これは毎年学校と地域合同の消防訓練のときに、島民が消防署からやって来る職員の方に操作方法を習っているものだ。
私もできるかぎり参加していたし、やりたがりなので男性陣に混じって実際に使ってみたこともあった。
訓練のときは、島内に2箇所ある消火栓のうち学校に近いものにつないで放水していた。
その2つの消火栓で、島内の家々が集まっているところならほぼ全域をカバーできるのだ。
でも、我が家はアヒルをたくさん飼えるほどに隣家から大きく離れている。さてどうすれば…?
という質問に消防署員が教えてくれた非常手段を、まさか本当に講じることになろうとは。
そう、吸水ホースを海に突っ込んで海水をかけるのだ。
さらに勢いを増している火を止めるには、もはやこの消火ポンプ以外に手はない。
いよいよ本番というこのとき、はたして消火ポンプのエンジンは始動するか!?訓練の成果は!?
動いた!!
そして、力強くホースの中を進む海水。
大人2人で支えなければならないほどの勢いの水は、燃え盛る紅蓮の炎を2時間半後にはほぼ鎮火させることができた。
あまりの火の勢いに、もはやこれまでと半ばあきらめて重要なものを家から運び出していた私は、夜8時過ぎには再びそれらを戻し、一息つくことができたのだった。
消防署に119番通報した人の話によると、ヘリか何かによる消火剤の散布といった我々の期待とは裏腹に、消防署の返事は
「これから船をチャーターしてホースをたくさん持っていきます」
ということだったらしい。
それを待っていたら、きっと我が家は灰になっていただろう。
小さな離島の不便さは今さらいうまでもないことながら、頼りない消防署に比べると、鎮火するまで島民一丸となって消火作業に当たっていた姿は感動的ですらあった。
最近あちこちで行政に頼らず住民が地域おこしをしているという話題を耳にするけれど、この力があれば水納島もその気になればまだまだいろいろやれるんじゃないのだろうか。
火事場のバカ力だったのかもしれないけれど……。