●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2019年11月号
当店の古くからの常連ゲストのなかには、すでにお子さんが二十歳前後になっている方も多く、お子さんが水納島でアルバイトをしたいと希望されることもある。
あいにく当店には厚生労働省が定めるところの最低賃金を出す余裕がないものの、島には大勢の日帰り客を相手にする海の家とパーラーがあり、常連のみなさんなら顔馴染みということもあって、希望は二つ返事で決まることになる。
そういう経緯で昨シーズンバイトをしていたビーチボーイの親御さんが、今年もダイビングをしに来てくださった。
すると、ビーチボーイがバイトをしていた店とは別のパーラーのオーナーから、「もう少しで親戚になったのにね!」と言われてビックリしたという。
実は件の息子さんは、別のパーラーで働いている女の子と「いい仲」になり、その子はパーラーのオーナーの親戚筋なのだ。
オーナーがいう「もう少しで親戚」とはすなわち、2人の仲が発展してめでたく結ばれていれば、お互い縁戚関係になっていたところだったのにね、というわけである。
若い二人の話は水納島のような小さな社会では瞬く間に広がるので、我々も当然のごとく知っていた。しかし息子さんから何も聞いていないご両親にとってはまさに寝耳に水。
いきなり他人から「もう少しで親戚」といわれても、キツネにつままれたような顔をするしかないパパとママだったのはいうまでもない。
ビーチボーイ君に限らず、自分の若い頃をふりかえってみても、いちいち親に自分の異性交遊関係を詳らかに報告したりはしないのがフツーの感覚だとばかり思っていた。
ところが島出身の若者たちの多くは、彼女・彼氏ができるとフツーに島に連れてきては両親や親族に紹介するかと思えば、紹介された親族もウェルカムモードで楽し気に一緒に過ごし、「早く結婚しろ!」くらいの勢いで二人の仲を応援する文化がある。
明治後、西洋的倫理規範に則り日本の伝統的な風習が随分改められてしまう以前までの沖縄には、「毛遊び(もうあしび)」という風習があったそうな。
いわば地域社会公認の「若い男女の出会いの場」で、多くの男女がそれによって将来の伴侶を定めていたという。
若者たちの恋を見守る水納島のオトナ社会の感覚は、なんだか毛遊び華やかなりし時代の名残り的お祝い好き文化のような気がする。
前述の「もう少しで親戚に…」という軽い(でも言われた相手はビックリする)ジョークも、その感覚に基づいているに違いない。
その名残り的伝統(?)をまだまったく知らなかった頃のこと。
よく我が家に遊びに来ていた子が高校生になって本島に出て、お正月に久しぶりに帰省してきた際、彼女を伴ってわざわざ挨拶に来たのでびっくりしてしまった。
私の感覚ではご近所や親族に彼氏彼女を紹介するとなれば、それは「婚約者」を紹介するくらいオオゴトなのに(その彼は、正月の帰省で連れてくる子が毎年違っていた…)。
他にも結婚したとか、子供が生まれたとか、めでたいことを報告しに島出身の子が我が家にやってくることもある。
はじめこそ面食らったけれど、今なら紹介しに来てくれなかったら逆にがっかりするだろう。
でもやっぱり彼氏彼女の段階で紹介されると、うっかり「この前の子と違うね」なんて言っちゃいそうな自分が恐ろしい…。