●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2019年12月号
我が家では、体重が40kgほどのケヅメリクガメを庭の四畳半ほどの飼育スペースで飼っている。
かなりデカいので、インパクトは絶大だ。
同じ敷地内で営業している雑貨屋さんに足を運んでくださるお客さんのなかには、興味津々でカメをスマホで撮影する方も多く、たまたまその場に居合わせると、彼らからいろいろご質問をいただくことになる。
その際、種名や年齢などのほか、数多く寄せられる質問のひとつが
「このカメは何を食べるのですか?」
というもの。
リクガメはおおむねベジタリアンで、ケヅメリクガメもその例に漏れない。
子供の頃には多少の動物性たんぱく質も必要らしいけれど、御年23歳になる我が家のケヅメリクガメは完全な草食だ。
ただしヒトが食べる野菜類だけでは、リクガメたちにとって必要な栄養分を充分まかなえない。
リクガメフードというものも売られてはいるけれど、体重40㎏のカメ用に買っていたらそれだけで破産してしまう。
こういう場合に重宝するのが野草だ。
野草は栄養的にカメに必要なものを多く含んでおり、なかでもクワの葉は、カルシウムから何からリクガメが必要とする栄養素をほぼ網羅するスグレモノ。
リクガメ飼育には欠かせないカルシウムパウダーなどは、クワの葉を与えている限り必要ないと言われているほどなのだ。
とはいえ街中でクワの葉を探すのは容易ではないし、たとえ生えていたとしても交通量が多いと排ガスを浴びまくっている。
それに近頃は官民揃って除草剤を安易に使用している土地が多いため、野草だからとおいそれと餌にすることができないという難点がある。
その点水納島は、島内全域無農薬で野菜を作っているし、排ガスを心配するほどの交通量があるはずもなし。
沿道の雑草はヒトの手で刈り払っているから、野草も完全無欠の無農薬だ。
しかも、随分昔に島内では養蚕をしていた時代もあったので、各家の敷地内には蚕の餌用だったクワの木が今も植わっている。
そのほか、鳥さんたちがタネを拡散してくれたのか、クワの木は島のあちこちで野生化している。
その昔、まだ島内に冷蔵庫など無い時代には、大きな台風のせいで島内の青物が何もなくなってしまったとき、真っ先に芽吹くのがクワの葉だから、それをてんぷらやおひたしにして食べたものだった、という話を随分昔におばぁからうかがったことがある。
また、栄養的には非常に優れているということから、県内にはクワの葉を使って健康食品系の特産品を作っているところもあるほどだ。
そんな知られざる実力の持ち主ではあるのだけれど、現在は養蚕をしているわけじゃなし、甘くて美味しい実もほとんど省みられることもない水納島のクワは、あくまでも雑木でしかない。
そんな誰からも忘れられかけていたクワの木に、リクガメの主食という大活躍の場がもたらされたのである。
島内のどこで採っても安心して与えられるクワがたくさんという環境は、リクガメ飼育者からするとおそらく夢のような世界といっていいかもしれない。
しかも餌代はタダ!
ただしそれもこれも、体重40kgのリクガメに必要なクワの葉を毎日毎日採ってこそ。
けっこうな時間と労力を必要とするこの作業が今やすっかり日々のルーティンになっているだんなは、そのおかげでどこにどれだけ生えているか、どの木の実が美味しいかなど、島内クワ事情についてかなり詳しくなっているのだった。