●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2022年9月号
毎年シーズン前に、島の人々や水納島に日帰りツアー客を連れて来る業者さんたち総出で大々的に行われるビーチ清掃では、冬の間に海水浴場や隣接する長大な砂浜に溜まりに溜まったゴミが集められ、海岸はいったんすっかりきれいになる。
シーズンが始まってもゴミは流れつくけれど、毎日スタッフさんたちが地道にゴミを拾い集めているから、ビーチはいつもきれいに保たれている。
ただしそのように人の手が及んでいるのは海水浴場および隣接する海岸側だけで、灯台をグルリと回ったあたりの砂浜には、所狭しとゴミが流れ着いたままだ。
なかでも目立つのが、漁業用に使用されていたものと思われる各種ブイ。ガラス玉を使っていた昔と違い、プラスチック製になって安価で使用できるようになったのはいいものの、日本各地からはもとより、周辺諸国からも、たくさんのブイが海岸に流れ着くようになっている。
地球規模の問題になっているマイクロプラスチックに比べれば遥かに巨大で処理しやすいとはいえ、排除しても排除しても流れてくるブイは厄介なことこのうえない。
我々が越してきたころの水納島には、いわゆるダイビングポイントがまったくといっていいほど設定されておらず(前オーナー時代はジェットスキーなどのマリンスポーツをもぱらだったので)、わざわざ本島から水納島まで潜りに来るダイビング業者など、日に1隻あるかないかくらいのものでしかなかった。
そのため越してきてからの我々は、島を取り巻くリーフの外を時計で言うなら5分刻みくらいの間隔でまず潜ってみて、手探りで水納島の海中を探索することにした。
ポータブルなGPS機器もスマホもグーグルアースもない時代のこと、たまたま前オーナーが所持していた国土地理院発行の島の航空写真を頼りに場所を特定しながら、そこの海中がどういった景観でどのような生物が見られたか記録し、いわゆるダイビングポイントとして適当かどうかを決めていった。
そしてその結果、まずは7~8カ所が面白そうだ、ということになった(その後少しずつ増やしていった)。
頻繁に潜るようになってその都度アンカーを落としていたらどうしてもサンゴなどを傷つけてしまうようになるから、それを防止するため、設定したポイントごとにブイを設置することにした。
ブイなんて街中じゃ購入する以外に手に入れる方法はないだろうけど、幸いにして海岸には当時からゴロゴロ転がっているから、入手先にはまったく事欠かなかった。
やがて時代が変わって水納島に多くのダイビングボートが訪れるようになり、我々が設置したブイのロープでは大型ボートの使用に堪えないからだろう、気がつくとすべてのロープがちょっとやそっとじゃ切れそうにない高価な太いロープに変わっていたり、いくらなんでもこんな近くに設置しなくても…というくらいに新たなボート係留用のブイがあちこちに増えていった。
そんな水中ブイの中には長年海中に没したままのものもたくさんあって、その表面ではやがてサンゴが育ち始める。サンゴが育てばそこに他の生き物が暮らし始めるので、枝間にはサンゴガニがいる…ということも。
当初ブイを設置し始めた頃は本島から夜な夜な電灯潜り漁をしに水納島まで来るウミンチュが多く、設置した翌日にはバッサリとロープが断ち切られていた、ということもたびたびあったため、その後ブイを水中に定位させるようにした。常時海中に没しているものだから、その表面にはサンゴなど様々な付着生物が息づくようになり、やがてそこを暮らしの場にする生き物も宿りはじめる。海岸ではゴミでしかなかったブイの、新たな人生(?)の始まりだ。
まったくもって生き物たちは逞しい。
浜辺に漂着したままだとただのゴミでしかないブイが、使い道によってはいわばプチ漁礁となるのだ。もっとも、浜に流れ着く大量のブイの前には、焼け石に水の利用法でしかないけれど…。