●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2022年11月号
島の中心部から歩いて5分ほどの桟橋へ向かう道には、途中にささやかな砂丘が形作る坂があり、集落側からその坂を登ると、まっすぐ続く道の向こうに青い海と白い砂浜が見えてくる。
この景色は毎日のように見ている私でさえ心洗われるくらいだから、水納島での心に残るシーンのひとつになっているという観光客もきっと多いことだろう。
その景色をさらに雰囲気よくしてくれているのが石畳の道だ。石畳といってもヨーロッパの旧市街のような灰色の石をビッシリ敷き詰めたものではなく、トラバーチンと呼ばれるクリーム色の石灰岩製石材が間隔ゆるめに配置されているもの。厚さは均一ながら形も大きさも様々ということもあって、自然な印象を醸し出している。
この石畳の道はおよそ30年前に公共工事として施工されたもので、私が引っ越してきた頃にはすでに工事はほぼ終了していた。島に遊びに来ていた学生当時は、集落内も坂道もサンゴ礫混じりの未舗装路だったのだけど、当時の坂道ではひとたび大雨が降ろうものなら流水で道が崩れてしまい、その都度大変な思いをしていたらしい。
それを思えば、島民にとって舗装道路はかなり画期的な工事だったといえる。それもただのアスファルトにすれば圧倒的に安上がりになるところ、わざわざ石畳で施工しているところが素晴らしい。必要なことにさえ出し渋る現在のお役所ではそんな気の利いた予算などとうてい考えられない話だから、これは当時のバブル経済の恩恵だったのかもしれない。
石畳の道を歩いていると、なぜだかハートマークが仲良く2つ並んでいることもある(おそらく島内で1ヵ所だけ)。施工業者のイタズラか、はたまた単なる偶然か。いずれにせよ、それぞれ形もサイズも異なる石が敷かれてある道ならではの発見ではある。もっとも、いついかなるときもスマホ画面を見てばかりいる近頃の観光客のみなさんには、ハートマークはもとより、そこが石畳の道であるかどうかということすら関係ないのかもしれない…。
もっとも、島内のすべての道を石畳にするほどの予算ではなかったらしく、裏浜まであと100メートルというところから先と、そこから西へと続く数百メートルは異なる工法による2期工事分となり、本当の石畳ではなく造形して着色した偽石畳仕様のコンクリート舗装になった。
それでもこれがただのアスファルト舗装だったら観光客にとって島内散策の魅力は半減していたに違いなく、たとえ偽石畳仕様でもそれなりの配慮がうかがえる。
この石畳の道は本来「町道」なので、本部町役場にはちゃんと担当部署があるはず。ところが少なくとも我々が島に越してきてから現在に至るまで、毎日の掃除から年に数回の沿道の草むしり、木の伐採、台風後の後片付け、下水道の砂留に溜まった砂の排除などなど、すべて島民の手で維持してきた(だからといって役場から予算が出るわけではない)。
それが近年は絶滅危惧種認定されてもおかしくないほどの島民の過疎高齢化によって、道路環境の維持もかなり厳しくなってきている。
一方で、島内全域に渡ってリゾート開発したいという魔の手(※個人の感想です)がいよいよ水納島にも迫ってきている。
開発業者は「開発」にあたっての諸事情をクリアするためにも、まずは幅6メートルの道路をアスファルト舗装でドドンと造る、なんてことを得意気に説明していた。
現実問題として学校も休校となり、限界集落スレスレでジリ貧状態の島としては、最後の希望でもあるかもしれないリゾート開発。その是非はともかくとして、島を「開発」するのであれば、新たな舗装道路はせめて石畳にしてくれればよさそうなものなのに。
ま、土地を高く売ってナンボの不動産業者の「開発」に、旅情や景観が入り込む余地などあるわけないか…。