●海と島の雑貨屋さん●

ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

235回.ジーマミー

月刊アクアネット2022年12月号

 沖縄は四季じゃなくて夏と冬の二季だ、などとよく言われるけれど、日がすっかり短くなって暑くもなく寒くもなく過ごしやすい今の季節はまさに「秋」。夜が早く始まる分、夕食に時間と情熱をたっぷり傾けられる日々が続いている。

 水納島に長く暮らしいるおかげで、島の秋ならではの定番メニューがいくつかある。そのひとつがジーマミーだ。ジーマミーとは落花生のことを指す沖縄方言で、和語は花が落ちて地に潜るところに注目しているのに対し、沖縄では地豆が転じてジーマミー、実の在処を名にしているところが興味深い(地上で咲いた花が地に潜った後に地中で実ができる)。

 落花生といえば本土では千葉県の名産で、埼玉出身の私にとってはお隣さんだけに、それなりに食べ方がいろいろあることも知ってはいた。

 けれど沖縄に来てから、落花生で豆腐を作るということにまず驚かされた。いわゆるジーマミー豆腐で、独特のタレともどもこれがまたたいそう美味しい。空前の沖縄ブームを経た今では、ご存知の方も多いことだろう。

 その他観光土産アイテムとしては黒糖と絡めた「黒糖ピーナッツ」も有名だけど、産地ならではジーマミーの炊き込みご飯は、まだまだ知る人ぞ知る的メニューかもしれない。

 秋に収穫されたばかりの落花生を、すぐに食べるなら殻を剥いてから、殻付きのまま天日で干したものなら、殻を剥いて一晩ほど水に戻してから、お米と一緒に炊くと出来あがる。

 落花生の薄皮でほんのり桃色に染まったジーマミーごはんは、いわばお赤飯の小豆がピーナツになったようなもので、小豆より存在感がある豆がホクホクしてそれはそれは美味しく、埼玉にいた子供の頃は秋になるたび味わっていた栗ごはん同様、ついつい三杯飯になってしまう。

 昔から落花生も作っていた水納島で豆ごはんといえば、このジーマミーごはんのことになる(もち米で炊くと美味しさ倍増)。

水納島では春のお彼岸ごろに種をまき、10月ごろに収穫するのが一般的。収穫された落花生は、ハトやカラスに盗まれないよう網で覆われ、殻付きのまま干される(同時に剝いたものも干す)。15年くらい前ならまだおじいおばあがみんな元気でたくさん作っていたから、天気のいい日にはそこかしこで落花生が干されており、島の秋の風物詩のひとつになっていたものだった。

 豆腐にしてもごはんにしても、もちろん炒っても塩茹でにしても美味しいジーマミー。「マサエさんも植えればいいのに」と昔からよく言われていて、私としても各種冬野菜と同じく「自分で作って食べ放題!」としたいところではあった。

 ただ残念ながら収穫時期がシーズン中に重なってしまうため、手が出せないまま今日に至っている。

 でも毎年おすそ分けをいただいていたおかげで、ジーマミー豆腐もジーマミーご飯も、それぞれ自分で作ることができるようになっている。

 豆腐は島に越してきたばかりの頃には誰も作り手がおらず、レシピは古い古い沖縄料理の本で知った。そのレシピを島のとある方にも伝えたところたいそう喜んでもらえ、その後しばらくその方の定番料理になっていた。

 ヤシガニが大喜びするほど島中にジーマミー畑があったその昔は、収穫数が多いとその後殻を剥くだけでも大仕事。豊作の年には「指先の皮がむけて痛い」と、おばあたちが喜びながら嘆いていたものだった。

 それが現在ではわずかに畑で作られているのみで、近い将来にはついに生産者がゼロになる日が来るかもしれない。

 ありがたいことに今年もまた、剥いたあとサイズごとに選別されたものと、殻つきのまま干さずに蒸したものをそれぞれいただいた。

 殻付きのものは塩茹でにして、大粒のものは炒って、それぞれ食前酒のアテに、小粒のものはもちろん水に戻して豆ごはんに。

 おかげで秋の味覚をたっぷり楽しむことができたのだった。