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ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

237回.タマネギの苗争奪戦

月刊アクアネット2023年2月号

 また野菜作りの季節がめぐってきた。

 第233回『「あたいぐぁ」造成計画』の稿で述べたように、今季の私の耕作面積は庭の家庭菜園スペースでしかないから、耕すのも肥料を入れて畝立てするのも、手作業であっという間に終わってしまうのだけれど、なるべく多くの種類を効率よく作ろうと、無い知恵を絞って種類、場所、時期などを様々に計画して楽しんでいる。

 去年までは200坪ほどの土地を好きなように使えたので、効率はあまり考えずにそれぞれの種類をかなり多めに作り(量の多寡が変わっても手間はさほど変わらない)、余剰分はご近所や友人知人に配っていた。

 それは苗を作る時も同じで、予備も含めてかなり余分に作り、余ったものは、フットワーク軽く島外まで苗を買いに出かけることができない島のおばあたちにあげていた。

 ところが今季は、10坪の畑では必要な苗の数もたかが知れているから、従来のような余剰分の苗がない。すると、これまで余分な苗の供給が恒例になっていたおばあたちが困ってしまったようなのだ。

 もちろん私の畑事情については昨年からご存知だし、苗はもうこれまでどおりにいかないことを伝えてはあった。けれどどうも彼女たちは、タイミングを逆算して準備するということが苦手なようなのだ。

 みんな大好きだから毎年作っているタマネギで、それが顕著に表れる。

 意外なことにタマネギは苗の状態ではなかなか売られておらず、たとえ売られていても、たまの本島へのお出掛けでそのチャンスに巡り会える機会はまずない。そのためホームセンターでも売られているタネを買い、苗を作る必要がある。

いつしか自分の畑に植える分よりも遥かに多い『余剰分』を作るのが恒例になっていたタマネギの苗たち。タマネギの場合はタネから育ったものが畑に移植できるようになるまで2ヶ月近くかかるから、そのためには収穫時期から逆算したタイムリミットまでに苗が育っているよう、時期を逆算して苗作りに取り掛からなければならない。初めてならともかく毎年のことだからみなさんすっかりご存知のはず…なのに、なぜだか毎年、みなさんがタマネギの苗作りを始めるのは、畑の準備(草を刈って耕すなどの作業)が半ば完了した11月初旬になってしまい、移植のタイミングに間に合わなくなるのだった。

 私は毎年10月の上旬には苗作り用のプランターにタネを撒いているので、11月下旬から12月上旬頃にはもう、いつでも畑へGO!という状態になっている。

 ところが、そろそろタマネギの苗を畑に移植しなければ収穫時期に間に合わない…という頃になっても、おばあたちの苗はまだ芽が出たばかりで、つまようじほどの太さにもなっていない。

 そして「でーじなたん!(大変なことになった!)」というその時に、すっくと伸びて鉛筆くらいの太さに育っている私の苗が目に入るわけである。

 当初は1人2人だったものが、やがてすっかりアテにされるようになった頃にはアテにする人の数も増えていて、一時は苗の予約は早い者勝ち的な「正恵のタマネギの苗争奪戦」状態になってしまったこともある。

 そうなるとこちらとしても角が立ったりして心苦しいから、近年は苗を必要としそうな人たちの数を見越して苗を作るようにしていた。

 なまじそれが恒例化していたものだから、今季もまたタマネギの苗問題が出来し、余った苗はないか、という声があちこちからかかってきたのはいうまでもない。切羽詰まっているあまり、植える畑がないのに苗だけ作るわけないじゃん…というところには思いが至らないのも面白い。

 ことほどさように、毎年のことなのに毎年のように同じことが問題化するのは、ひとえに逆算して準備するということができないという性分ゆえ。

 これは個人の問題なのだろうか、それともお土地柄なのだろうか。

 いずれにせよみなさんタマネギで生計を立てているわけではないので、これはこれでほのぼのと笑える季節の風物詩として、けっこう楽しんでいる私である。