●海と島の雑貨屋さん●

ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

244回.完全無欠の放置マンゴー

月刊アクアネット2023年9月号

 今夏、我が家の冷蔵庫はフルーツパラダイスになっていた。

 島バナナ、シークワーサー、ドラゴンフルーツなどが大量キープ状態で、フルーツに事欠くことが無い生活が長く続くシアワセ…。

 それもこれもここ数年、ストロング台風の直撃を受けずにすんでいたため、果樹たちが揃ってスクスク成長していたおかげだ。

 水納島では島バナナを畑や家の敷地の端っこに植えている方が多く、台風で倒されないかぎり竹林のようにどんどん株が増えていき、それぞれが年に2回は実をつける。その実も、10本ほど生る房が6~7段、つまり1本のバナナの株に一気に70本ほどの島バナナが実る。

 甘いだけの輸入物の海外産バナナと違い、島バナナは酸味も豊富でまるで別モノのフルーツといっても過言ではないほどだ。ただし生産者が少ないため県内でも僅少ということもあって、市販価格は相当高価なのだけど、水納島では商品化できるほどの量が採れるわけでもないため、島でできた島バナナはすべて自家消費するしかない。

 かといっていくらバナナ好きであってもさすがに70本のバナナを短期間で完食できるはずはなく、おかげで我が家にもおすそ分けが回ってくるありがたい果物でもある。

 シークワーサーも島内では庭木として育っている木が多く、以前本稿でも紹介したように熟す前から利用方法は様々で、なおかつバナナよりも保存がきくからいくらあっても困らない。

 それでも限度を超えたとんでもない量の実が採れたりすると、これまたお裾分けに与かる機会が増えてくる。

 そしてドラゴンフルーツは、出荷用や島内で加工品を販売するために生産している方が、商品にならない規格外品を「カメのエサにして」と持ってきてくださるものだから、カメのエサをインターセプトして自分たちで食べている次第。

 これらはいずれも島ではお馴染みのフルーツなのだけど、なんとなんと、今年はそこに、初めてマンゴーが加わった!

ある日買い出しのため本島まで行った際、あらためて各種県産フルーツの価格を知り、たいそう驚いた。我が家の冷蔵庫のフルーツは、それぞれものすごい値段ではないか!しかもまず他所では手に入らない水納島産無農薬フルーツだ。そんな素晴らしいものを毎年恒例的に頂戴しているだなんて、なんとゼータクなことだろう…。今回そこに新たに加わった水納島産マンゴーは、そこらのブランドを売りにしている商品が裸足で逃げ出す絶品中の絶品。外観は売り物ほど美らかーぎーではなくとも、実の美味しさときたら…あ、思い出しただけでヨダレが。

 沖縄を代表するフルーツのひとつであるマンゴーは、実らせるためにはけっこう手間がかかる果樹で、実をつけるのに大切な時期と梅雨時が重なるものだから、ハウス栽培でもしていなければ安定的収穫は望めない。

 そのため市販価格は今もなお高価で、いわば県産高級フルーツの代名詞でもある。ところが今年、我が家から程近いお家の敷地に生えているマンゴーが、どういうわけかたくさん実をつけたのだ。

 私が水納島に引っ越してきてから一度実をつけたことがあったものの、それから四半世紀以上の間、その木が再び実をつけたという話を聞いたことはない。なにしろ本来なら手のかかる果樹なのに完全無欠の放置プレイだから、そうそう実が生るはずもない。

 それが今年はマンゴーにとって大事な季節にバッチリな気候だったらしく、夏を迎えた頃には立派な実をたわわに実らせ、我々もおすそ分けをいただく機会に与かることができたのだった。

 そうはいっても完全無欠の放置プレイで生った実のこと、さすがに市販品とは比べるべくもない…

 …と思いきや!

 食べ頃になるまで待ってからいただいたそのマンゴーの実は、なんとも芳醇かつ濃厚の逸品で、今まで食べたことがあるマンゴーの中で一、二を争う美味しさだった。

 放置プレイマンゴーを育む水納島の土壌、おそるべし!