●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2010年12月号
タイのタオ島でダイビングインストラクターをしている日本の方が、休暇で帰国したついでに水納島までダイビングをしに来てくださった。
タオ島は周囲約10キロほどの小さな島で、話をうかがうと生活環境が水納島とよく似ている。
我々とご同業ということもあっていろいろと興味がわいてきてしまい、思わず根掘り葉掘り質問攻めにしてしまった。
いわく、水道を使っていたら蛇口からオタマジャクシが出てきたとか、電力供給不足のために地区ごとの交互の停電が暗黙裡になされているとか、就学年齢の子供は小さい頃から労働力として家の手伝いその他をするために学校に通えないとか……
同じ小さな離島でも、やはり日本はそれなりに恵まれているのだなぁということがよくわかる。
そんな興味深い数々の話の中で、我々とほぼ同じように彼らが抱えている問題が、ほかでもない散髪だ。
水納島とは違ってタオ島には唯一ながら散髪屋さんがあるそうなのだが、そこでこういう髪型にしてくれ、と写真を見せながら事細かく説明しても、どういうわけか必ず角刈りになるという。
何度目かでついにその散髪屋さんに見切りをつけ、ダイビングのお客様で美容師さんがいたら、その都度切ってもらうようにしたそうである。
たしかにいい方法だけれど、当店に来るお客さんといえば酔っ払いばかりなので、たとえ美容師さんだとしても鋏を持たすわけにはいかないのはいうまでもない。
水納島には当然ながら美容室、理容室どちらもない。人口50人しかいない島でそのような商売が成り立つわけがない。
では髪の毛をそろそろナントカせねば、となったらどうするかというと、船賃を払って本島にお出かけしなければならない。
それも、連絡船の運航時刻内に完結させる必要がある。
引っ越してきたばかりの頃、さて散髪をどうするかという段になって困った。
島から日帰り可能な本部町近辺には島のおじいやおばあが普段通っている床屋さんや美容院があるにはあるものの、それはそれでどういう髪形になってしまうかちょっと怖かったので行くに行けない。
それ以前に、私もだんなも特に髪形がどうのこうのというこだわりはないものの、そんなどうでもいい散髪のために高い船賃を払ってまで行かなきゃならないというのがそもそもクヤシイ。
そこでいい方法を思いついた。
自分たちでやってしまえばいいのだ。
前述のとおりもともと髪に関しては見苦しくなければいいという以外に頓着がない私は、前髪は自分で切って、後ろはだんなにジャキジャキ切ってもらえばそれで何の不都合もない。
美容院なら待ち時間と往復を含めていったいどれほど時間がかかるか知れたものじゃないけど、この方法なら5分も経たずに終了する。
一方だんなの散髪は、バリカンと鋏を駆使して私がやっていて、これもものの15分くらいで終わってしまう。
当初はさすがに「素人がやりました」という出来上がりだったけれど、最近は手馴れてきたので、多少は見られるようになってきた。
数年前には島の中学生の高校受験の面接用にと、親に散髪を頼まれたくらいだからある意味折り紙つきなのだ。
なにはともあれ、天気のいい夕方に屋外でする水納島青空美容室、お金も時間も節約できて、結構気に入っているのであった。